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浅田真央をトリプルアクセルにこだわらせたもの

跳ベ跳べ、と彼女の背中を押してきたメディア

青嶋ひろの フリーライター

 「浅田真央に関して、全日本選手権でダメだったら引退か、という臆測記事が出ています。もし引退発表があったら、それについて書いてもらえませんか」

 WEBRONZAからのそんな原稿依頼が来たのが、12月の全日本選手権直前。筆者はこう返事を送っている。

 「たぶん9割5分、引退はないと私は踏んでいます。全日本で良くても悪くても。今日の公式練習を見るに、3位か4位くらいで、ちょっと復活、というあたりを読んでおりますが、どうなりますか……」

 しかして浅田真央は、全日本選手権12位、現役続行を表明、という一連の流れは、すでに報じられたとおりだ。

 どんな結果になっても、浅田は引退などしないだろう。それは、現場で彼女を数年取材していれば、誰でも感じ取れることだった。

 彼女は「ピョンチャン五輪までは」と心に決めて、競技の場に帰って来たのだ。ふんわりとした見た目からは想像できないほど頑固で、心に一本芯の通った彼女が、「ここまで」と決めた道の半ばで放り出すことなど、絶対ない。「引退か」などという頓狂な憶測記事を載せていたのはすべて、現場での取材をろくにしたこともない中途半端なネットメディアばかりだった。

SPの滑走順抽選会場に笑顔で入る浅田真央拡大2016年12月の全日本選手権、SPの滑走順を決める抽選会場では笑顔だった浅田真央

全日本選手権12位の衝撃

 しかし筆者とて、えらそうなことは言えないだろう。「3位か4位くらいで、ちょっと復活」などと予想し、12位という結果の方は、まったく想定できていなかったのだから。

 実際、全日本選手権前の浅田真央は、想像以上に「いい感じ」だった。公式練習でのジャンプの調子は、悪くない。またそれ以上に、ステップやフットワーク、体のキレなどが、格段にいい。世界選手権メダリストの宮原知子、世界ジュニアメダリストの樋口新葉、本田真凛ら豪華なメンバーと同じ練習グループだったが、練習から浅田ばかり目で追ってしまうくらい、彼女の動きのしなやかさ、華やかさは段違いだった。

 そして何より、試合前のインタビュー中の、彼女の表情が良かった。一番大事な決戦前だというのに、朗らかな笑顔を絶やさず、ここまで積んできた練習の手ごたえをまっすぐに語る。もちろん、挑むジャンプの難度などは若い選手たちに及ばないが、試合前、演技が一番楽しみになった選手は、誰よりも浅田真央だった。

 それに彼女は、大一番に強い。スロースターターで、シーズン序盤は悔し涙を流すも、肝心の全日本では見事にすべての力を出しきる……そんなどんでん返しを、これまでどれだけ見てきたことか。

 だからこそ、12位という結果は、大きな大きなショックだった。練習で輝きを見せず、取材でも暗い表情でこの結果であれば、これほどの衝撃はなかったはずだ。

女子のジャンプ技術のピークは?

 万全、とはいえないまでも、昇り調子できていた浅田が、なぜ12位で終わってしまったのか? ここでどうしても考えてしまうのは、「トリプルアクセルさえ捨てていたら……」ということだ。

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筆者

青嶋ひろの

青嶋ひろの(あおしま・ひろの) フリーライター

静岡県浜松市生まれ。2002年よりフィギュアスケートを取材。日本のトップ選手へのインタビュー集『フィギュアスケート日本女子 ファンブック』『フィギュアスケート日本男子 ファンブック Cutting Edge』を毎年刊行。著書に、『最強男子。 高橋大輔・織田信成・小塚崇彦 バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』『羽生結弦物語』(ともに角川つばさ文庫)、『フィギュアスケート男子3 最強日本、若き獅子たちの台頭 宇野昌磨・山本草太・田中刑事・日野龍樹・本田太一」(カドカワ・ミニッツブック、電子書店で配信)など。最新刊は、『百獣繚乱―フィギュアスケート日本男子―ソチからピョンチャンへ』(2015年12月16日発売、KADOKAWA)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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