久保田智子(くぼた・ともこ) アナウンサー
アナウンサー。2000年、TBSに入局。17年6月に退社。「どうぶつ奇想天外!」「王様のブランチ」「筑紫哲也のNEWS23」「報道特集」「Nスタ」などのキャスターを担当。著書に『日日猫猫』。12年には文芸誌『群像』にて短編小説『息切れ』を発表。趣味はマラソン。ホノルルマラソンに8年連続出場。最高タイムは東京マラソンにて3時間55分。米国ヨガアライアンス、イシュタヨガ認定インストラクター。
居場所が失われかねない危機感、アメリカ・ファーストの先に強大なナショナリズム?
ワシントンDCで行われた「ウィメンズ・マーチ」に参加した。トランプ大統領就任式の翌日に女性主導で行われたトランプ氏に抗議するデモだ。全米各地で同様の行進が行われ総勢数百万人が参加するという異例の盛り上がりになった。なぜ私がデモに参加したのか、当初強い理由があったわけではなかった。むしろ、デモをしたところで大統領が変わるわけもないのにと、その意義に懐疑的だったように思う。そんな私に、思いがけない出来事が起きた。
デモの日は、ホテルのエレベーターに乗った瞬間から360度人だらけだった。一体どこから湧き出ているのだろうと不思議なくらいの人ごみが一斉にデモ会場に向かっていた。ちょうど前日に就任式が行われた連邦議会議事堂の前あたりに差し掛かると、狭い道から一気に開けた広場になる。密集していた人との間隔が緩和されたため、私は立ち止まり議事堂の写真を撮ろうとスマホを構えた。
すると、背後に何かぶつぶついいながら近づく女性を感じた。振り返ると身なりのきちんとした初老の白人金髪女性で、何かに苛立っているようだった。そして私に「そうだろ?(Right?)」と大声で同意を求めてきたのだった。訳がわからず、怒鳴られたことが怖くて、その場をやり過ごそうと「Right」と微笑んだ私。すると、女性は眉間にしわを寄せ「とっとと自分の国に帰りな!」と吐き捨てるように言ったのだった。
私はその言葉の意味をただちには消化できず、とにかく再び議事堂の写真を撮ろうと前を向きスマホの画面を凝視したのだが、目には何も入ってこない。ただ、頭の中で今自分にかけられた言葉を反芻した。ちょうどこの場所で、昨日トランプ大統領は「アメリカ産を買って、アメリカ人を雇用する、アメリカ・ファースト」と繰り返していた。つまり外国人の私の居場所はここにはないのだろうか。
はっとして、私は女性の発言の真意を知りたくて、もう一度振り返り、群衆の中にさっきの女性を探した。みんながデモ会場に向かう中、その女性は一人反対方向に歩いていた。デモの参加者ではなく、昨日の就任式に参加したトランプ支持者だったのかもしれない。走って追いかけようとするが、
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