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虐待防止へ児童相談所の構造的問題の解決を

子どもの保護と親・家庭の支援の両立に困難性

西澤哲  山梨県立大学人間福祉学部教授

はじめに

 昨年6月、児童福祉法が改正された。本改正は、1947年の児童福祉法制定以来の大改正であると言える.こうした大改正が求められたのは、戦後70年間が経過する中で、わが国の子どもや家族をめぐる状況が大きく変化し、戦後直後にその骨子が形作られた子ども家庭福祉制度の機能不全が顕著になったからである。とりわけ、現行制度が、子ども虐待の急増に対応できていないとの現状が、児童福祉法の大幅改正の原動力となったと言えよう。本稿では、子ども虐待の現状を概観した上で、今回の法改正が提示した制度改革の方向性を、特に児童相談所のあり方を中心に見ていく。

虐待通告件数の急増

一時保護所に置かれた歯ブラシ
 2015年度に児童相談所が対応した子ども虐待関連の通告件数は103,260件であった。この種の統計が初めて公表された1990年には、その件数が1,101件であったことを考えると、隔世の感を禁じ得ない。

 虐待通告件数の急増には二つの要因が寄与していると考えられる。一つは、家庭内における暴力に対する社会的な意識の変化である。1999年にDV防止法が、そして2000年には児童虐待防止法が相次いで制定されたが、それ以前は、家庭内での暴力は「私事」であり、社会は介入しないという立場が優勢であった。しかし、2000年あたりにそうした意識に変化が見られるようになり、家庭内のことであっても暴力には社会的介入を行うようになったと言える。すなわち、こうした暴力に対する市民の認識の変化が、虐待通告件数の増加につながったと考えられるわけである。

 一方で、市民の意識の変化のみでは、100倍近くにも及ぶ件数の増加を説明することはできない。そこには、虐待発生件数の実質上の増加が考えられよう。そして、その背景には、家族の養育機能の低下、あるいは家族の崩壊の進行が推測される。すなわち、虐待通告件数の急増の背景には、家族病理やそれを生み出す社会病理といった、わが国社会の極めて深刻な問題が横たわっていると言え、その対応には非常に高度な専門性が求められることになる。

児童相談所と子どもの虐待死

 わが国の子ども家庭福祉の中核的役割を担っているのは、1947年に制定された児童福祉法に基づき都道府県および政令指定都市に設置される児童相談所である。2004年に児童福祉法が改正されるまでは、上記の虐待通告を一手に引き受け、その後の対応に当たってきたのは、この児童相談所である。2004年の法改正で、市町村にも虐待通告に対応する窓口が開設されることになったが、通告の対象となった子どもの状況を調査するための調査権(保護者が拒否しても調査は行われる)や、子どもの心身の安全を確保するための一時保護権(保護者の同意を得る必要はない)などの強い権限は、依然、児童相談所のみが持っている。すなわち、虐待事例への対応の要は、児童相談所であると言える。

 厚生労働省が公表している『子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第12次報告)』によれば、2005年1月から2015年3月までの約10年間に発生したと厚生労働省が認知した虐待死事件の被害者数は397人に及ぶ(これは、あくまでも厚生労働省が認知した件数である。現在のわが国には、子どもの死亡の原因を的確に捉える制度がないため、この件数は氷山の一角であり、実際には10倍程度の虐待死亡件数が見込まれるという調査報告もある)。この397人の子どもたちのうち、死亡事件の発生以前に虐待通告等で児童相談所が関わっていたのは、全体の13.6%に当たる70人であった。年度によってはその比率が25%にも及ぶ場合もあり、児童相談所が子どもの命を守れているとは言い難いというのが実情である。

児童相談所が抱える構造的問題

 児童相談所が虐待の事実を把握していながら、子どもの死亡という最悪の事態を回避できなかった背景には、児童相談所が抱える構

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