田中敏恵(たなか・としえ) 文筆家
1969年生まれ。文芸誌編集を経てフリーランスに。文芸、食、旅、建築などライフスタイル分野の記事や、国内外で活躍する著名人たちへのインタビューを雑誌や新聞に寄稿。2006年より取材を開始したブータン王国に関する講演活動も行う。著書に『ブータン王室はなぜこんなに愛されるのか~心の中に龍を育てる王国のすべて』、共著に『未踏 あら輝~日本一予約の取れない鮨屋』。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
規制ではなく創造性や革新性を高める武器としてのリーガルデザインを説く弁護士の著作
「法律」とは、萎縮しがちな今どきの世の中をポジティブに変える術である。
そのように言われたとして、果たして何人が頷いてくれるだろう。法律とは何かの規範を定めてあるもの、つまりルールである一方で、それを破ったら罰せられるというネガティブな部分に焦点があたってしまうことが少なくない。しかしさにあらずと語る本がある。『法のデザイン』だ。
『法のデザイン』は、今注目を集める弁護士・水野祐の初の単著である。これは英語のリーガルデザイン(Leagal Design)を訳した言葉であり、リーガルデザインとは“法の機能を単に規制として捉えるのではなく、物事や社会を促進・ドライブしていくための「潤滑油」のようなものとして捉える考え方である。多くの人が捉えているであろう「規制」ではなく「潤滑油」としての法律……。本書は、一般的に思い描く法律とは異なる、いや逆の意味合いで法を捉え、その観点から述べられている。
インターネットやそのデバイスの成熟によって、今やクリエイションは一部の特権的な人たちだけのものではない。世界中において、SNSを使い自身が撮った写真や動画、制作した音楽や文章が披露されている。誰もがクリエイターになっているのだ。
その一方で、肖像権の問題をはじめとした法の遵守の観点から創造にブレーキがかかることも少なくない。そればかりか些細な趣味の延長から国家的プロジェクトにいたるまで、誰もが批評家批判家となって、大勢から抗議や批判が浴びせられる炎上も茶飯事となっている。これを投稿したらまずいだろうか、これを作ったら問題だろうかという不安はもはやクリエイションと背中合わせといってもいい。
そういう状況の中、法ももちろん変化を求められるのは自然のことであるが、ここで書かれているのは変化に対応した法整備というような消極的なアプローチではなく、前に進んだ新しい捉え方である。そしてこのリーガルデザインこそが、萎縮しがちな世の中において窮屈さを感じないだけでなく創造性や革新性をさらに高めていく武器になりうると著者はいうのだ。
本書では
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