杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター
1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポルタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
日々進化する新宿伊勢丹の販売員たち、百貨店は情報も売る場所へ
百貨店という業態が時代遅れともいわれている。忙しい現代人は通販や駅ビルで買い物をするから、百貨店まで足を伸ばさなくなってきた。しかし、百貨店も切磋琢磨して、進化しており、かつてないサービスが受けられるようになってきている。
10年ほど前から百貨店の化粧品売り場に、客が自分で商品を選ぶ「セルフ売り場」が増えていった。化粧品の知識が豊富な若い世代は、販売員がアドバイスする対面販売が煩わしいと感じるから、それに対応したものだ。しかし、今、百貨店の化粧品売り場では対面販売が復活し、客で賑わっている。
平日の夜、池袋西武の1階コスメ売り場を通ると、アラサー世代の女性客で大変賑わっている。彼女たちは鬼のようにコスメに詳しいが、さらなる専門的な情報を求めて百貨店にくるのだ。そのため、池袋西武ではメイクアップスタジオを売り場に置き、レクチャーしながら、商品を売っている。
かつて客が「化粧品の対面販売うざい」と思ったのは、販売員の知識が浅かったからだ。だが、現在は販売員たちも勉強し専門的な知識を持っている。ゆえに客が戻ってきたのだ。量販店で買えば安く手に入るのに、わざわざ定価販売の百貨店にくるのは、「情報を買う」目的があるのだ。
消費行動として「安いから買う」以外に、「優れた情報を提供してくれるから買う」というものが出てきた。むろん、百貨店は後者の消費行動をする客をターゲットにするしかない。
この販売員による「情報提供」という点で、新宿伊勢丹は突出しているのだ。
『女子SPA!』(雑誌『SPA!』運営の女性向けネットサイト)の2017年3月17日配信で「アラフォーでもだらしなく見えないデニム選びに挑戦!」という記事の中で、女性ライターは“最近のデニムは裾の前と後ろの高さが違うのはなぜか”という疑問を持つ。渋谷のファッションビル109の販売員に尋ねても明確な答えが返ってこない。
ところが新宿伊勢丹で販売員に同じ質問をすると、「あれはモーニングカット、もしくは、イレギュラーヘムといいます。ちょっと前から、前が短くて後ろが長いスカートとか、シャツを前だけインして後ろを出すとか、そういうブームが来ていますよね。その流れでデニムもこうなっちゃったみたいですよ」と流れるような説明が返ってきたという。そうなると客は「この人から買おう」と思う。
新宿伊勢丹でこのような体験をした人は多いのではないか。あの店の販売員たちは
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