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羽生結弦と宇野昌磨はN・チェンに勝てるのか?

フィギュアスケート男子、五輪プレシーズンの世界選手権を前に

青嶋ひろの フリーライター

GPファイナル de優勝してメダルを見せる羽生結弦(中央)。2位のネイサン・チェン(左)、3位の宇野昌磨拡大2016年12月のグランプリファイナルで優勝した羽生結弦と2位のネイサン・チェン(左)、3位の宇野昌磨。ピョンチャン五輪の表彰式でもこのメンバーが?

 五輪プレシーズンの2016-2017シーズン。フィギュアスケート男子でもっとも衝撃的だったのは、ネイサン・チェン(アメリカ)の大躍進だろう。

 まだシニア1年目の17歳。ジュニア時代はケガが重なり、実力はあるものの世界ジュニアのタイトルを逃し続けた選手、という印象だった。それが、いつの間にか4種類の4回転を持つ新星として現れ、シニア初出場のグランプリファイナル2位、四大陸選手権は羽生結弦を抑えて優勝。

 精度を増すばかりの4種類の4回転(トウループ、サルコウ、フリップ、ルッツ)は文句のつけようがないし、何よりまだ試合で全貌を見せていないスケーティング技術と、音楽表現力がすばらしい。彼のフリー「韃靼人の踊り」は、5本の4回転を成功させるため、今のところ滑りやステップは省エネ気味。プログラムとしては物足りなさを感じる人もいるだろう。しかし、公式練習の曲かけで時折見せる、すべてのジャンプを外して振り付けやステップに集中した「韃靼人」は凄い。「スケートでここまでドラマチックなストーリーが描けるのか……」と驚くほどの作品だ。

 彼のジャンプと滑り、そしてバレエ的な美しいポジションのパフォーマンスがすべてひとつになる時が1年以内に来たら? もう、誰がどんな滑りを見せても、一番若いネイサンにかなわないかもしれない。こんな選手ならば、羽生か宇野昌磨が獲ると思われたピョンチャン五輪の金メダルを、横からかっさらわれてもしかたない……などと思ってしまう。

 日本のエースふたり。願わくば、オリンピックの表彰台に並んで立ってほしいふたりは、若き巨人にどう立ち向かうのか。

過敏なほど言動に気をつけていた羽生結弦

 最近の羽生結弦を取材していて気がかりなのは、彼の本音がまったくといっていいほど聞けないことだ。体調が悪いのではないか、と聞かれれば「ぜんぜん!」と即座に答える。どう見ても先ほどの滑りには覇気がなかったのに、「きょうは気持ちよく滑れました」と言う。そして、様々なことがしんどそうに見える時に、「今、僕は滑ることが幸せです」と語る。

 なぜ彼は、ほんとうの気持ちを隠そうとするのだろう?

 大丈夫、楽しいんだ、と自分に言い聞かせなければ崩れ落ちてしまうほど、今の彼にとって競技を続けることは苦しいのかもしれない。

 下からは、19歳の宇野昌磨、同じく19歳のボーヤン・ジン(金博洋、中国)のみならず、ネイサン・チェンまで現れて、彼らはみな、自分が跳べない4回転ルッツやフリップを見せつけてくる。オリンピックチャンピオンであり、世界最高得点保持者である自分を、遙かに高いポテンシャルを持つ若者たちが追いかけてくる状況。その中でトップに立ち続け、次のオリンピックも絶対に優勝して、連覇を成し遂げたい。しかし故障の多い身体も、彼を取り巻く様々な環境も、必ずしも万全ではない。

 また最近の彼は、過剰なくらい言動に気をつけているようだ。言葉尻ひとつをあげつらう人々が多い現在、発言に慎重であるよう、周囲からも言われているのだろう。そんな彼の霞みがかった言葉はもどかしく、なかなかこちらまで届いてこない。本心を包み隠さず話せ、などとは言わないが、ソチ五輪以降、われわれメディアとの間にできてしまった壁は、なんとも厄介なのだ。

追いかける状況を楽しんだ四大陸選手権

 しかし2月、四大陸選手権。総合得点300点を超えながら、ネイサン・チェンに及ばず2位。このハードな戦いのあと、羽生は久しぶりに、心からの声を聞かせてくれたような気がした。 ・・・ログインして読む
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筆者

青嶋ひろの

青嶋ひろの(あおしま・ひろの) フリーライター

静岡県浜松市生まれ。2002年よりフィギュアスケートを取材。日本のトップ選手へのインタビュー集『フィギュアスケート日本女子 ファンブック』『フィギュアスケート日本男子 ファンブック Cutting Edge』を毎年刊行。著書に、『最強男子。 高橋大輔・織田信成・小塚崇彦 バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』『羽生結弦物語』(ともに角川つばさ文庫)、『フィギュアスケート男子3 最強日本、若き獅子たちの台頭 宇野昌磨・山本草太・田中刑事・日野龍樹・本田太一」(カドカワ・ミニッツブック、電子書店で配信)など。最新刊は、『百獣繚乱―フィギュアスケート日本男子―ソチからピョンチャンへ』(2015年12月16日発売、KADOKAWA)。

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