京都の撮影所で慕われた男気とやさしさ
2017年04月24日
こころに響く健筆で書かれた一枚のはがき。今年の元旦に俳優井上茂のもとに届いた年賀状である。差出人のところには渡瀬恒彦と墨痕あざやかだ。
「この年賀状をもらったときはドキッとしました。毎年もらうものとはちょっと違ったから。短文だけれど、このなかに込められた思いに、心騒(ざわ)めいていました」と井上さん。
毎年、宛名から文面まで、本人の直筆で律儀に綴られていたという。
渡瀬さんと井上さんの出会いは今から43年ほど前、『影同心』(MBS 東映)というテレビ映画である。渡瀬恒彦、山口崇、金子信雄主演、奉行所では役立たずの昼行燈の同心が、実は影の刺客という物語で、『必殺』の向こうを張った時代劇であった。
初対面の挨拶のとき、井上さんは「ゆうき哲也の弟の井上茂です」と名のった。当時チャンバラトリオで人気を博していた兄の名を言ったのだ。すると「それは違う、あなたは井上茂でしょ」と一蹴。誰かの弟ではなく、あなたはあなた自身。ここに、渡瀬さん自身の兄渡哲也とは一線を画す気概を見たと井上さんは語る。
1970年代、東映京都撮影所には、命知らずの役者たちで溢れていた。川谷拓三、野口貴史、岩尾正隆、志賀勝……主役を食う斬られ役と言われていた。三度の飯より映画好き、さらに底なしのうわばみで、酒がらみの武勇伝は数知れない。
無類の酒好きなのに忘年会などどこからもお声がかからず、ならば自分たちで飲み会をしようよということで集まったのが最初であった。 映画の画面を埋める役者‘埋め助’でクレジットされることもない大部屋役者たちと、室田日出男、小林稔侍、片桐竜次、成瀬正孝といった東映の俳優が次々加わり、ピラニア軍団という俳優集団が結成された。
その強者揃いの束ね役で発起人が渡瀬恒彦だった。破天荒な役者たちをおもしろがり
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