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日本全国の屋内で全面禁煙が必要だ

東京五輪に向け、日本の受動喫煙防止の現状と今後の課題を考える

大和浩 産業医科大学 産業生態科学研究所 健康開発科学 教授

国際条約で求められている全面禁煙

 2005年に発効した「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」では、喫煙室や空気清浄器による工学的な対策では受動喫煙を防止できないことから、受動喫煙を防止するために屋内を100%全面禁煙とすることを求めている。すでに49カ国、米国30州で公共施設はもちろん、一般企業、そしてレストランやカフェ、バー(居酒屋)も含めて罰則のある法律により全面禁煙となっている。

拡大すべての施設が全面禁煙の49カ国と米国30州

分煙が不適切な理由

 2003年の「職場における喫煙対策のためのガイドライン」では出入り口で0.2m/sの風速を設定した「一定の要件を満たす喫煙室」の基準が示された。確かに、それ以前の場所を決めただけの喫煙コーナーよりはマシであったが、その後の調査で喫煙室では以下の理由により、タバコ煙の漏れを防止できないことが判明した。筆者のホームページに動画でそれぞれ解説しているので視聴して欲しい(http://www.tobacco-control.jp/)。
・ドアの開閉によるフイゴ作用でタバコ煙が押し出される
・ 喫煙者が退出する際の歩行速度は0.7m/sあるため、身体の後ろにできる空気の渦に巻き込まれて煙が持ち出される。
・ 肺の中に貯まっているタバコ煙が喫煙室外で吐き出される
そのため、WHOは「喫煙室や空気清浄機など工学的なアプローチでは受動喫煙を防止できない。屋内を100%完全禁煙とする」ことを求めている。

五輪大会に必要な全面禁煙

 2010年、世界保健機関(WHO)と国際オリンピック協会(IOC)は「たばこのない五輪大会を開催すること」について合意文書を交わした。選手や関係者、そして観戦するために訪れた人々が受動喫煙に曝露されないように、近年の五輪大会は、競技会場はもちろん、レストランまで禁煙の国で開催されることが慣例となっている。特に、ロシアは2014年のソチ大会がきっかけとなり全土が禁煙化されたほど、五輪大会における禁煙化は重要なのである。リオデジャネイロでは屋外であってもパラソルなどに覆われている席は禁煙であった。2018年の平昌大会が予定されている韓国でも2015年1月から屋内が原則禁煙となっただけでなく、屋外席も禁煙化された。禁煙が当たり前の国々から来た選手団や観光客は、たばこモクモクの日本のレストランに入ったときにどう思うだろう。きれいな空気は「おもてなし」以前の問題である。

健康増進法改正案

 政府は五輪大会に備えるために2003年に施行された健康増進法の一部を改正して、飲食店等を含む受動喫煙防止対策を強化するために、2016年10月11日に以下の「たたき台」を発表し、関係諸団体にヒアリングを行った。日本医師会からは「喫煙室を設置することなく全面禁煙」が求められ、飲食店等のサービス産業からは「営業収入が減る恐れがある」「分煙を認めよ」という意見が出された。

拡大厚生労働省から示された受動喫煙防止対策に関する「たたき台」

 国会には自民党の約280名の議員が所属する「たばこ議員連盟」、そして、与野党(大多数は自民党)の喫煙議員が参加する「もくもく会」という組織があり、さまざまな形で喫煙対策の推進を妨げてきた。メンバーの多くはタバコ産業から政治献金を受けている。2017年1月、自民党の「たばこ議員連盟」から法規制について以下の「対案」が示された。すでに敷地内禁煙が当たり前になっている学校や病院に喫煙室を容認する、建物内禁煙が常識化しつつある官公庁に喫煙室可、タクシーも表示すれば喫煙可能、という目を疑うような内容である。官公庁を全面禁煙とする法規制が成立すれば自分たちが国会で喫煙出来なくなる。ニコチンに頭を支配された自民党議員たちの必死の抵抗である。困ったことは「たばこ議員連盟」と「もくもく会」には野田毅氏、大島理森氏、石破茂氏のように発言力が強い議員が多く所属していることだ。

拡大自民党たばこ議員連盟から示された「対案」

拡大丸テーブルの隙間に目立たないように置かれた灰皿

 2017年3月1日、厚生労働省はその圧力に押されて、「たたき台」から後退、つまり、バーやスナック、そして規模は示されていないが小規模店舗(メディアでは「30平米以下」と報道されている)を除外する修正案を示した。喫煙室を容認していた「たたき台」でさえ不十分な内容であった法律案が、今後、どのような形で国会に上程されるか注目されている(4月23日時点)。

拡大厚生労働省から示された修正案と諸外国との比較

全国で屋内禁煙が必要な本当の理由

 「五輪大会のために全面禁煙!」を強調し過ぎると、「東京だけでやれ」「短期間のイベントのために法規制はやりすぎ」「目指せ、分煙先進国」などと言い出す人がいる。しかし、 ・・・ログインして読む
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筆者

大和浩

大和浩(やまと・ひろし) 産業医科大学 産業生態科学研究所 健康開発科学 教授

産業医科大学卒業(1986年)。 研究内容 ・ 職域の包括的な喫煙対策(建物内・敷地内禁煙、勤務時間中の禁煙) ・ 医・歯学部の敷地内禁煙化、公共交通機関の禁煙化 2006年より現職。多忙な勤労者が運動習慣を獲得・維持する職場環境と指導法の研究。医学博士、労働衛生コンサルタント、日本産業衛生学会指導医。 喫煙・禁煙歴:19歳で喫煙を始め、36歳で禁煙するまで7回の禁煙失敗。        現在、8回目の禁煙を20年間、継続中。