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新選考方法で低迷脱出に舵を切った日本マラソン界

代表3人のうち2人を1つのレースで決めるグランドチャンピオンレースを新設

増島みどり スポーツライター

マラソン代表選考の新方式について説明する日本陸連の尾県貢専務理事(中央)=2017年4月18日、東京都新宿区マラソン代表選考の新方式について説明する日本陸連の尾県貢専務理事(中央)=2017年4月18日、東京都新宿区
 選考の仕組みを示す流れ図、いわゆる「フローチャート」には何の不備も見つからなかった。瀬古利彦・マラソン戦略強化プロジェクトリーダーが「これ以上の選考方法は見つからない」と自信をのぞかせたのもうなずける完成度である。日本陸上競技連盟は4月18日、2020年東京五輪マラソンの選考方法を、従来の方式から一新するプランを大体的に発表した。

  今夏から19年春までの男5、女4の国内主要マラソンが1次予選「グランドチャンピオンシリーズ=GCシリーズ」と位置付けられる。

  この1次予選を決められた順位、記録で勝ち抜いたランナーが一堂に会して、今度は19年9月以降に新設される一発選考レース「グランドチャンピオンレース=GCレース」で代表2枠の座に臨む。ほかにも今夏のロンドン世界陸上8位以内、18年ジャカルタ・アジア大会3位以内など、陸連が指定する国際大会で順位、記録を満たしていれば「ワイルドカード」でGCレースに進出可能だ。

  代表残り1枠は、GCへの出場権を持ったランナーの中で、19年冬から20年春までの国内主要マラソンを「ファイナルチャレンジ」として走り、設定タイムをマークした中の最上位者が選ばれる。

  今回の大改革の柱となるのは、一発選考レースを新設する点と、それを可能にした「全方位外交」にある。

  日本のマラソンは男女とも新聞社、メディアが主催する、世界にもない例を見ない形で強化、発展、またレース同士が激しい競争を行ってきた特有の歴史がある。これまでは、新聞社が主催する国内選考レース男女3レースに、五輪前年の世界選手権を含めて4レースが選考対象だった。代表3人を4レースで選考するのだから、異なる条件下での結果を比較する困難が常に付きまとった。

  しかし莫大な放映権料を支払うテレビ局を含め、新聞社が主催する国内レースの変更は陸連、広告代理店にとって一種の「聖域」だった。自分たちのレースから代表を出したいと願うのは当然。選考レースの数を絞って優勝者を選べばいいといった案も、五輪前年は一発選考レースのみを実施すればもめないのでは、とアイディアも検討されながらいつも立ち消えした理由である。メディアが「いつももめる」と陸連を批判する一方、自社の主催マラソンとその仕組み自体には触れられない格好だった。

  今回、聖域を切り崩すのではなく、むしろ主催メディア全ての顔を立てる「全方位外交」で国内選考レースは従来通りとし、2枠を決めた後も1枠を争う「ファイナルチャレンジ」として配慮したため、各社が折り合いを付けた。

  瀬古リーダーの「これ以上・・・」の発言には、新聞各社、メディアの調整がいかに困難を極めたかが透けて見える。

大不振のマラソンの強化に本当につながるのか

  選考方法の大改革は、男子は1992年のバルセロナ、女子は2004年のアテネ大会以来メダルを遠ざかってしまった深刻な低迷への危機感にもある。日本のマラソン界は64年東京の円谷幸吉(銀)、68年メキシコの君原健二(銀)、女子は92年、96年の有森裕子(銀と銅)、高橋尚子のシドニー大会金、アテネでは野口みずきの金と5人のメダリストを生んできた。

  しかし世界との差は広がるばかり。男子の世界記録(2時間2分57秒)と、15年も前、2002年に樹立された日本記録(高岡寿成=2時間6分16秒)との差は単純に計算しても1キロ以上離されており

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