杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター
1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポルタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
新郎の濃いキャラクターよりも、母娘の確執が注目される理由は
歌手、神田沙也加の結婚が話題になっている。すでに結婚式とパーティーを終えたが、そこには両親の姿はなかった。この結婚が大きくメディアで取り上げられたきっかけは、4月26日に沙也加がインスタグラムで結婚を発表した時に掲載した一枚の写真だ。父親の神田正輝と結婚相手で俳優、村田充に挟まれた沙也加が満面の笑みを浮かべていた。この写真は見る人に「なぜ、母親の松田聖子がいないのか」という想像をかき立てさせる。
そのため、テレビや週刊誌のサイトでは「沙也加は母親に結婚報告していない」「決別した」と騒ぎ立てた。村田充は有名アイドルたちと交際を報じられたモテ男であるし、彼のブログを読むとなかなかディープな表現で沙也加への愛を語っていて実に興味深いのだが、世間の興味は彼よりも沙也加と聖子の母娘の確執に向いている。
なぜそうなるかといえば、現在は男女の関係よりも、母娘の葛藤の方が関心を持たれるテーマだからではないか。
非婚化の時代、結婚しても離婚することが増えた今、男女のつながりは一過性の関係になっている。しかし、母と娘は不変な関係だ。また、寿命が延び、年をとっても元気な母親が増えると、それだけ、母と娘の付き合いも長くなるから、対立や確執も増えていく。
この日本の「母と娘の難しさ」をわかりやすい形で表しているのが、神田沙也加と松田聖子なのではないだろうか。一部報道によると、二人は決別しておらず、母娘で内祝をしていたとのことだが、実際、この母と娘が仲違いしているのか否かは、本人たちも分かってないのではないか。本稿では、なぜここまでこの有名すぎる母娘の関係が注目されるのかを考察していきたい。
テレビや書籍でも恋愛がらみのコンテンツ商品は減る一方で、母娘の葛藤を描くものは増えている。書店にいけば、「毒母物」のエッセイや小説、そして、精神科医やカウンセラーによる分析や解説の本が並んでいる。今年の1月にはドラマ『お母さん、娘をやめていいですか?』(NHK)が放映された。
「毒母」をテーマにした本を担当した女性編集者がいう。
「男性と良い関係を築くのは、どうにかなるんですよ。人間関係は相性。前妻へのDVで離婚した男性が、再婚したら暴力とはほど遠い良き家庭人になることもあります。男性は星の数ほどいるわけだから、見た目や肩書ではなく、”自分と合う人”という点で選んでいけば、一人ぐらいは良き伴侶は見つかるでしょう。でも、母親とうまくやるのは難しい。なぜなら母親はひとりしかいないからです。
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