杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター
1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポルタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。
「ママは私の輝きを奪っていく」。毒母より深刻な“剥奪する母”
スティーブン・スピルバーグ製作総指揮のドラマ『SMASH/スマッシュ』(2012年)はミュージカル製作の裏側を描いた意欲作だった。このドラマの準主役は実力派で、多くの制作者たちから評価されているが、なかなか大きな役に恵まれないアイヴィーだ。
その彼女はようやく主役を演じるチャンスに恵まれる。マリリン・モンローの生涯をミュージカル化する作品で、マリリン役の候補になる。
苦労人アイヴィーだが、ある日、稽古場に大スター歌手と現れる。アイヴィーは「母なの」という。周囲ははじめてアイヴィーがいわゆる“二世”であることを知る。アイヴィーは役をとるために平気で演出家とベッドを共にするが、一方で、決して母親のコネを使わずに、舞台では“その他大勢”を演じてきた。
しかし、母親からすると娘を応援しようと思い、稽古場についていったのだ。そして、稽古場のキャストやスタッフに乞われると、一曲、見事に歌い上げ、拍手喝采を受ける。
注目を集める母親を見て、アイヴィーはこうつぶやく。
「ママは私から輝きを奪っていく」
スターである母親は無意識のうちに主役になってしまうし、結果、娘は傷つくのだ。主役はいつもママ。娘はママが輝くために犠牲になり続けないといけない。毒母よりずっと深刻に娘を痛めつける“剥奪する母”である。
この『SMASH/スマッシュ』を彷彿とさせるシーンを、私は2014年のNHK紅白歌合戦でみた。神田沙也加が『アナと雪の女王』企画のコーナーに出演し、歌った。この年、神田沙也加のキャリアは大きく変わった。世間一般では「駄目な二世タレント」と認知されていたのに、『アナと雪の女王』吹き替え日本語版で、王女・アナ役を好演し、劇中歌もヒット、「神田沙也加ってこんなに歌がうまいんだ」と人々を感心させ、実力派の歌手として知れ渡った。
血のにじむような努力をし、その歌手としての成長を2014年の紅白でも披露したわけである。
しかし、この年、大トリ(最後に歌う)をつとめたのが母親の松田聖子だった。彼女は娘の歌唱する姿をみて涙ぐんだ。カメラは娘の晴れ舞台に涙する聖子をアップでとらえる。あの年の紅白で最もインパクトを残したのはこのシーンだったはずだ。視聴者は涙する聖子を見て「スターでもやっぱり母親なんだ」と感動したり、共感したりする。神田沙也加の晴れ舞台も、結局は
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