司法取引、通信傍受とセットで捜査能力の向上を狙い導入か
2017年05月30日
この動きを広い視野で捉えて理解することに挑んでみたい。立法の動きを観察し評価するためには、立法提案者の説明をまず聞き、それから反対意見を吟味するのが通常である。
今回、どこが常道を逸しているかと言えば、政府側の説明の中心であるはずのテロ対策と国際条約の批准が、到底厳密な議論に耐えない、とってつけたような理由にしか聞こえないだけでなく、反対する側の主張も、警察に武器を与えると市民社会の自由が侵されるという、極めて抽象的なもので、隠された本音のぶつかり合いが見えてこないことである。
政府が本当の狙いについて語らずに、別の大義名目を持ってくることは、是非はともかくよくあることであるが、本当は何がしたいのか見えないことはめずらしい。
法律を制定するさいに、それを促す現実問題を立法事実と呼ぶ。刑事法の場合、本来、治安の乱れや、対策漏れしている犯罪の頻発などが想定される。ところが、今回の共謀罪を考察してみても、組織的な犯罪で具体的に問題になっている犯罪が思い浮かばない。
警察と検察が一生懸命になっているのに、立法事実がないはずがないとすれば、それは何であろうか。罪種を絞って細かくみると見えないのだが、むしろ大きな視野で捉えると、私には、これではないかと思い当たることがある。犯罪の現状悪化ではなく、捜査力の低下が起きていれば、それに対処するために、新たな捜査方法の工夫が必要になるはずである。
警察レベルで観察すれば、警察官の総数は、戦後から一貫して増加、最近も、日本経済が停滞期にあることから一般に公務員の数は抑制されているにもかかわらず、警察官だけは増員中である。それにもかかわらず、検挙件数は大幅低下中である。警察官増員のおかげで犯罪が減少したから検挙件数が減少したとの解釈も可能に見えるが、一件の検挙にどれだけの労力がかかっているかという観点からは、捜査力の低下は明白に思われる。
ただし、公平の観点から述べておくが、これは警察官の能力低下よりも、捜査に協力してくれていた地域社会の連帯力による民間協力の低下のほうが大きな原因
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