杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター
1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポルタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
娘を医者にしたいが、受験ロボットにはしたくないというジレンマ
前回は、小学校から高校まで続くミッション系女子進学校では、中学受験組よりも小学校から上がってくる子たちの方が学力的に上にくると書いた。学力的に「小学校から入学する子がエリートで、中学入試組は庶民」という卒業生のコメントも紹介した。
小学校入学組の保護者には医師も多い。彼らは娘を医師にしたいという希望があり、小学校から私立女子進学校に入学させる。しかし、それらの女子校の大学合格実績をみると、国立医学部の合格者はごく少数にとどまる。
娘を国立医学部に入れたいと思うならば、ミッション系の進学女子校の小学校に入れるのは効率がよくない。フランス語が必須だったり、宿題が多かったりして、医学部に入るための勉強の足かせになるからだ。フランス語の単語を覚える時間があったら、その分、数学や物理の問題を解いた方が医学部には近づける。
それでも、なぜ、「娘を医者にしたい」と考えながらも、娘をミッション系の小学校に入れるのか。
私の疑問に対して、小学校受験対策塾の関係者がこう答えた。
「教育とは大学受験対策だけではないと考える保護者たちがいるのです。小学校から私立に通わせるというと、“温室育ちになってしまい弱い人間になるのでは”という批判もありますが、それは違う。カトリックの女子小学校などは躾が厳しいし、勉強も大変です。公立小学校に通うよりも過酷な部分も多いんですよ」
実際、小学校から雙葉学園に通い、公立小学校の教諭になった女性がこう話していた。
「公立の学校ってこんなに自由なんだーってカルチャーショックでした」
また、白百合に小学校から通った女性がいう。
「中学校に入って、規則が緩くなったなーって、私たちは自由を感じている横で、中学受験で入ってきた子たちが“こんなに決まり事ばかりなんて牢獄みたい”と嘆いていました」
社会人になれば規律を求められるから、子供のうちからそれを身につけさせようという保護者もいるのだ。
娘を小学校から女子進学校に入れた保護者はいう。夫の職業は医師で、娘も医学部に入れたいと希望している。
「保険です。娘は自主的に勉強をするタイプにはなりそうもない。ならば、小学校受験で勉強や躾が厳しい私立に入れて、幼い頃から学習習慣をつけさせた方がいいと思ったんです。あと、個人的に桜蔭や女子学院などの御三家には違和感があって。受験や社会的なステイタスがすべてみたいな価値観の人間には娘をしたくないですから」
また、やはり、娘を小学校から女子進学校に入学させた男性はいう。
「桜蔭出身者はしっかりした女性が多くてすばらしいけれど、
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