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日本陸上にサニブラウン時代の到来

技術と地力と精神力がある18歳が見せてくれる世界最高峰との楽しみなレース

増島みどり スポーツライター

日本選手権男子100メートル決勝で優勝したサニブラウン(右端)。左から3位のケンブリッジ、4位の桐生、2位の多田=2017年6月24日、大阪市の長居陸上競技場日本選手権男子100メートル決勝で優勝したサニブラウン(右端)。左から3位のケンブリッジ、4位の桐生、2位の多田=2017年6月24日、大阪市の長居陸上競技場
  スプリンター、特に100メートルの選手たちにとって雨は不安材料を次々にかき立てる嫌な条件だ。視界不良やスリップ、激しい雨で乱される集中力、爆発的なスタートを切った直後、序盤走に入る際に態勢を崩しかねないし、アップからの筋肉の冷えもマイナス要因になる。昨年の日本選手権決勝(名古屋)同様、今年の日本選手権(大阪・長居ヤンマースタジアム)も、選手には気の毒な条件下で行われた。

  ロンドン世界陸上参加標準記録10秒12を5人も突破した空前の大激戦を制したのは、大会前の記録では5、6番手、予選と準決勝で10秒0台のトップレベルに仲間入りしたばかりのルーキー、サニブラウン・ハキ―ム(18=東京陸協)だった。

  決勝のスタート反応時間は、やはり慎重に0.156と8人中もっとも遅かったが、40メートルの中間走からみるみる加速し、57メートル地点で最高速度、秒速11.52メートルに到達。9秒台の必須条件とされる秒速11.6メートルには及ばなかったが、それでも2位の多田修平(関学大、10秒16)を0秒11も引き離す10秒05の自己新記録で異次元の力強さを実証した。ゴールするなりシャツの前を「やったぜ!」とばかりにポーンと外に出す仕草に余裕さえ漂った。

  100メートル予選、準決勝では10秒06を2度マークし、決勝は10秒05とさらに自己記録を更新。専門とされる200メートルでも20秒32の自己新で優勝し、実に14年ぶりに2冠を達成して選手権わずか3日間で「サニブラウン時代」の到来を強烈にアピールする結果となった。

  「9秒台を皆さんにお見せしたかったけれど・・・」

  シャイな笑顔で、しかし力強く言った。

  「でもこれからもっと高いレベル、世界陸上でいい記録を出したい。このまま練習できれば出るんじゃないか」

  10秒00(1998年)の日本記録保持者で日本陸連・伊東浩司強化委員長は「予選、準決、決勝とタイムを上げてくる圧倒的な強さ。世界のトップ選手、ボルトやガトリンのような地力を感じた」と絶賛。この日のサニブラウンを見ながら、豪雨と雷のなかで13年モスクワ世界陸上を制したウサイン・ボルト(30=ジャマイカ、世界記録9秒58)の姿を思い出した。

  神経質になるスタートで、ボルトは「雨に歌えば」のステップを真似て「雨に走れば」を軽く演じてスタンドの喝采を浴びた。人々を包み込むユーモアやどんな状況でもリラックスし楽しもうとするメンタルの度量が、どしゃぶりの決勝でも自己新を叩き出したサニブラウンに重なる。

世界では120人超が10秒の壁を突破

  1968年、米国のジム・ハインズが人類で初めて10秒の壁を突破する9秒95(高地記録とされる)をマークし、9秒台と人類最速のランナーの戦いが始まった。カール・ルイス(米国)が1983年、平地で初めて9秒97の世界記録を樹立して以降、今年6月まで35年間で「10秒の壁」を破ったスプリンターの数は(国際陸連のデータによれば)世界中で実に123人。

  人間の走力とともに、スパイクやトラックの進化、コンディショニングも記録をここまで押し上げた要因で「10秒の壁」といった表現ももう適切ではないのかもしれない。

  もっとも多い米国を筆頭に、24カ国の選手がすでに9秒台を

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