久田将義(ひさだ・まさよし) TABLO編集長
TABLO編集長。1967年、東京都生まれ。法政大社会学部卒業後、産経メディックスに入社。三才ブックス、ワニマガジン社の後、ミリオン出版に移籍し2001年から「実話ナックルズ」編集長。06年に選択出版に移り、週刊朝日を経てミリオン出版に復帰。12年9月まで編集局次長。犯罪や芸能界に詳しい。著書に『トラブルなう』『原発アウトロー青春白書』『僕たちの時代』(青木理氏との共著)。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「自民にも民進にも入れたくない」 投票所に入った後の1分間で決まった東京都議議選
「うーん。そうですか……」
机を挟んだ目の前で、男は深刻な顔をしていた。能天気に言った僕の言葉がそんな真剣なリアクションを引き起こすとは思わなかった。アイスコーヒーが入っているストローから口を外してあわてて言った。
「いや、だってそうでしょ。千代田区長選(2月5日)の敗北を見れば明らかじゃないですか。ふつうに考えて小池さんの雪崩式大勝だろうって、政治記者でない一介の編集者の僕でさえ予想がつきますよ」
永田町・自民党本部の一室で2人の事務方は苦々しい顔をしていた。むしろその表情の方が意外だった。この状態でまだいけるとでも思っているのだろうか、と。
しかし、その後の安倍政権を襲う毎週ともいえるスキャンダルが起こるとまでは想像していなかった。僕は、世間の小池人気と都議会のドン内田茂氏の牙城を崩した千代田区長選の結果を見て、「風は小池さんに吹いている」という表現をしたに過ぎなかった。
手帳を見直すと、3月5日の自民党大会の直前に自民党本部でお茶をしている。目的は僕も事務方も、情報収集という腹の探り合いである。こういう付き合いを、もう10年している。あれから約5カ月。今回の選挙結果を彼らはどう見ているのか、しばらくしてから連絡を取りたいところなのだが……。
自民党本部に行くたびに痛感するのが、小泉進次郎衆議院議員に対する、彼らの期待値の高さである。「彼が早く自民党を代表してほしい。象徴になって欲しい」。そのような雰囲気を言葉の端々から感じる。
その小泉議員は大きな流れの中に何とか石が流されないで頑張っていた。が、流れはあまりにも大きかった。都民ファースト――小池百合子東京都知事の人気と自由民主党の、そして安倍晋三首相への不信感。連日の安倍政権へのスキャンダラスな報道。これらは投票日当日前日まで続いた。
千代田区長選の都民ファーストの勝利で十分な追い風だったのに、そんな事さえ忘れさせてしまった安倍内閣のオウンゴールの連発。
僕のような東京都内住みの無党派層は恐らく、こう考えていたのではないか。
「疑惑を何にも説明しない安倍首相。それどころか開き直ったかのような発言。強引すぎる。だから自民党は今回は入れないでおこう。しかし、民進党にも入れたくない。ではどこに入れたら良いのか」。
新興住宅地が多く、のんびり育ってきた東京育ちの都会っ子の無党派層はこういった思考回路だと思う。僕も含めて彼らは大きな変化を求めていない。生活がそこそこ安定している層だ。しかし、迷うのが「ではどこに投票すればよいのか」だ。
この迷いは、投票所に入っても続いた。投票用紙に候補者の名前を書き込む際、約1分くらいまで続いたのではないか。勿論、すべてではないにしろ。
とは言え投票者の年齢を見てみると20~30代は少なく、