東京五輪金メダルに前進した「競歩大国」の舞台裏を、今村文男・五輪強化コーチに聞く
2017年08月23日
「気持ちのいい、ウイニングウォークだね」
昨年のリオ五輪では4位の選手が接触で抗議、一時は銅メダルから失格とされかけた荒井広宙(ひろおき、29=自衛隊)は堂々の銀メダルをほぼ手中にし、隣で銅メダルに向かって歩く小林快(24=ビックカメラ)に話しかけたという。50キロはまだ2度目だった小林も「はい、本当ですね」とうなずきかけた時、沿道のスタッフから「ウクライナが、10秒差だよ!」と、4位がわずか10秒差に迫っている緊急事態を知らされ、慌ててペースアップし逃げ切った。
帰国した15日の会見、快挙の陰にあったこんなエピソードを2人は笑顔で披露した。
競歩は、50キロもの距離で歩型を判定する審判との戦いでもある。ルールにある「ロスオブコンタクト」(どちらかの足が接地している)「ベントニー」(前足が接地してから垂直になるまでヒザを伸ばす)は3回の警告で失格。小林はレース中、注意と警告を一回ずつ受けている。キャリアが浅ければ、慌ててリズムを崩してもおかしくない。
「(注意と警告を受けた)レース中、荒井さんにまだ1枚、大丈夫だから落ち着いて、と声をかけてもらって冷静になれました」
小林はそう話し感謝する。
2015年北京世界陸上ではこの種目、日本人初のメダル(銅)を谷井孝行(自衛隊)が獲得し、昨年の五輪で荒井が銅。今大会は主要国際大会3大会連続メダルと同時に、初の複数メダル、さらに5位に丸尾知司(25=愛知製鋼)が食い込み3人が入賞を果たした。04年アテネ五輪の女子マラソン以来(野口みずき金、土佐礼子5位、坂本直子7位)の全員入賞の快挙だ。
荒井が、若い小林に「まだ大丈夫」と声をかけたのはもちろん経験値からだけではない。「歩型違反」なく複数、しかも3人が入賞できたのには(複数入賞は日本だけ)明確な理由がある。さらに言えば日本競歩陣が世界をリードする大国となり、日本陸上界をけん引する理由を、「大丈夫、まだ1枚だから」の一言が象徴していたのかもしれない。
今村文男・日本陸連競歩五輪強化コーチ(50=富士通)は、かつては世界に大きく離された日本競歩界を、最多となる7度の代表としてリードしてきたパイオニアでもあった。91年、台風通過直後に行われた酷暑の東京世界陸上
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