低所得者の住宅確保を民間に丸投げしている、日本の住宅行政
2017年09月27日
今年6月14日、ロンドン西部のタワーマンション「グレンフェル・タワー」(24階建て)で発生した火災は、約80人が死亡する大惨事となった。全焼したのは、低所得者向けの公営住宅。在留資格のない移民や難民も多数入居していたため、正確な死者の数を確定するのも難しい状況のようだ。
マンションの住民グループは、防火対策の不備を長年訴えてきたが、聞き入れられなかったと主張。連日、住民らによる火災の追悼集会や抗議集会が相次ぎ開催された。政府への批判が高まる中、行政区の区長らが辞任し、警察も「団体による過失致死罪」の適用を検討していると報じられている。
イギリスは1960年代から70年代にかけて、公営住宅の大量建設をおこなった。火災のあった「グレンフェル・タワー」も1974年に建設されている。1980年代、保守党のサッチャー政権は公営住宅の払い下げを進めて戸数を減らし、住宅予算の削減を進めた。住民たちは、火災の背景に保守党の財政緊縮策があるとして批判を強めている。
火災の前の週にあたる6月8日に実施されたイギリスの下院議員選挙でも、「反緊縮」を掲げ、住宅政策の充実を訴えたコービン党首率いる労働党が若者の支持を得て躍進をしており、住宅問題はイギリスの政治の大きな争点になっている。
今年5月7日、北九州市小倉北区の木造アパート「中村荘」で火災が発生し、入居者6人が死亡した。
2階建ての「中村荘」には4畳半から6畳の居室が16室あり、浴室・トイレ・台所は共用となっていた。
その後の報道で、「中村荘」は「日払いアパート」と呼ばれており、最初の1カ月間は1日500円で敷金・礼金、連帯保証人は不要。2カ月目以降も1日900円で宿泊することができたとのことである。日雇い労働者の短期的な滞在場所として使用されていたほか、福祉事務所や生活困窮者支援のNPOも、ホームレスの人が生活保護を申請した際の当面の宿泊場所として紹介していたようだ。
「中村荘」は地元の福祉関係者によって実質的な福祉施設として活用されていたが、火災が発生するまで、市の消防局や建築都市局はこのアパートの存在を認知していなかった。今後、北九州市は、福祉事務所のケースワーカーが生活保護世帯の訪問を行う際には消防設備の確認を行い、市消防局に情報を提供する取り組みを始めるとしている。
今年8月22日には、秋田県横手市のアパート「かねや南町ハイツ」火災が発生し、入居者5人が死亡した。
報道によると、このアパートは築50年の木造2階建て。六畳一間の和室が28室あり、火災発生時には管理人1人と24人の住人が暮らしていた。入居者のうち、17人が精神障害を抱え、12人が生活保護を利用していたという。
アパートの管理は、仕出し業などを営む「よこてフードサービス」が行っていた。家賃は、1日に2回提供される仕出し弁当の代金を含め、1カ月5万1840円。これはかなり良心的な価格と言える。同社の社長は、マスメディアの取材に対し、自分の母親が福祉活動をしていたことがきっかけとなり、近くの精神科病院から退院してくる精神障害者を受け入れるようになった。それが徐々に口コミで広がっていったと答えている。防火対策も徹底していたとのことだが、
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