受注単価がジリ貧の市場構造だが、AIの翻訳能力はまだ課題だらけ
2017年10月11日
実は翻訳市場はかなり人間臭く、ビジネス構造がAIソフトウェアの導入になじみにくいのだ。そもそも市場把握が難しい。業界団体の(一般社団法人)日本翻訳連盟がまとめ、数年に一度出される『翻訳白書』のわずかなデータのみが頼りとなる。
手元にある2013年度版を見ると、推定市場規模約2000億円/年に対して、翻訳会社約2000社ということは、1社平均の年商は1億円。登録翻訳者が1社平均552人というので、1人あたりの売上はなんと20万円/年。専業の方も多いだろうが、これはアルバイト的な仕事の仕方も多く含むことを意味する。筆者の親しいアラフィフの東大文学部卒女性は、専業主婦をしながら夫の海外勤務で英語力をつけ、帰国後ITデバイス(量販店で売っている類のもの)の取扱説明書の英訳をコツコツ続けて小遣い稼ぎしていると言っていた。
市場構造も、言わばジリ貧だ。年度売上高が「増えた」企業のほうが「減った」企業より多いのだが、受注単価は「下がった」のほうが「上がった」より多く、仕事量ばかり増えている。しかも過去の趨勢を見ると日本の経済状況、大企業の収支、の影響がかなり大きい。
何より収益源たる単価の原単位が、言語種類(マイナー言語ほど高い)と文字数(何文字で何円、の類)しか通用しないという業界慣習が悩ましい。取り扱っている文書の分類で言うと「化学・工業技術文書」と「ビジネス文書」が4分の1ずつで計5割、「コンピューター関連」が2割、「医薬・バイオ」で1割、特許5%、ほか様々という、専門性の極めて高い、ミスの許されない文書が翻訳されている。
しかも顧客側の業界があまり偏らず、求められる専門性も多岐にわたることになる。したがって顧客からのクレームの多くは、(1)技術専門知識の不足に加え、(2)日本語の能力不足、(3)対応の丁寧さ不足、が代表的なものになっているのだが、この3点に優位性があるからといってその特別料金を取る習慣も払う慣習もない点が、市場競争の不活発な状態を生み出し、ジリ貧の原因の一つになっていると思われる。
もちろん他の業界の例にもれず、
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