「住まいの貧困」に対応、住宅政策の大転換につながることを期待
2017年10月27日
10月25日、この国の住宅政策の転換点となるかもしれない事業がひっそりと始まった。今年4月に国会で成立した改正住宅セーフティネット法に基づく新たな住宅セーフティネット事業である。
この事業は、高齢者や障害者、低所得者など民間の賃貸住宅市場で住宅を借りにくい人々(国土交通省は「住宅確保要配慮者」と呼んでいる)が入居できる賃貸住宅を増やすため、都道府県ごとに空き家の登録制度を作り、行政が改修費や家賃の一部を補助するという仕組みである。空き家という民間のストックを活用するという点で、新築の持ち家住宅の取得を推進してきた戦後の住宅政策を大きく転換する事業と言ってもよいだろう。
国土交通省がこのような政策転換を図った背景には、世界にも類を見ないほど日本が「超高齢社会」になっているという現実がある。
今年9月の総務省統計局の発表によると、65歳以上の人口は約3514万人。総人口に占める割合は27.7%と過去最高を更新している。すでに高齢者が「4人に1人」という状態を超えているわけだが、2035年には総人口の「3人に1人」になると国立社会保障・人口問題研究所は推計している。
高齢者の中で、生活に困窮しやすいのは単身の高齢者である。現在、生活保護世帯の52%以上を高齢者世帯が占めているが、その9割は単身高齢者である。
平成29年度版高齢社会白書によると、2015年の単身高齢者は男性約192万人、女性約400万人で、高齢者人口に占める割合はそれぞれ13.3%、21.1%となっている。ちなみに1980年には男性約19万人、女性約69万人で、高齢者人口に占める割合はそれぞれ4.3%、11.2%であった。単身高齢者の人数は今後10年間でさらに100万人増えると見込まれている。
高齢者の8割以上は持ち家に暮らしているが、「下流老人」と呼ばれる低所得の高齢者の中には民間の賃貸住宅で暮らしている人も少なくない。だが近年、民間の賃貸住宅市場では単身高齢者に対する入居差別が深刻化している。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が2015年に賃貸物件のオーナーに対しておこなった調査では、単身高齢者の入居を「拒否している」と明言したオーナーは8.7%、「拒否感がある」と回答したオーナーは70.2%にのぼった。5年前の同様の調査より、それぞれ0.7%、11.0%も上昇している。また、障害者のいる世帯についても74.2%が「拒否感」を表明している。
拒否をしている理由としては、「家賃の支払いに対する不安」(61.5%)に次いで、「居室内での死亡事故等に対する不安」(56.9%)が2位に入っており、特に単身高齢者に対しては「孤独死をするのではないか」という懸念からオーナーの間に入居への拒否感が高まっていることが推察される。
孤独死が発生して、発見が遅れてしまえば、居室内の清掃や原状回復に多額の費用がかかるだけでなく、次に賃貸に出す際に事故物件として扱われ、家賃を下げざるをえなくなる可能性もある。そうしたリスクを考慮して、「最初から単身高齢者は入れない」という選択をするオーナーが多いのであろう。
他方で、全国の空き家は増え続けている。2013年の総務省の調査によると、全国の空き家数は約820万戸で、空き家率は13.5%。20年前の約1.8倍に急増している。空き家の中には市街地から遠く、使い勝手の悪い物件も多いが、最寄りの駅から1キロ以内の物件は約185万戸に上っている。
一方で、住宅が借りられなくて困っている人がいて、もう一方で空いている家がたくさんある。この両者をマッチングして、住宅問題を解決できないかと考えるのは自然な流れだろう。
実際、私自身も2014年に立ち上げた一般社団法人つくろい東京ファンドで、空き家を活用した生活困窮者への住宅支援を展開している。同様の取り組みは各地の生活困窮者支援NPOが実施しており、今回の事業はこうした民間の取り組みを参考にしながら設計されたのであろう。
新たな住宅セーフティネット事業の内容を詳しく見てみよう。
まず、空き家を活用してほしいオーナーは、都道府県や政令指定市、中核市等の登録窓口に届け出をおこなうことになる。
登録できる基準は以下の通りである。
・高齢者など「住宅確保要配慮者」の入居を拒まない。
・住戸の床面積が25㎡以上ある(ただし、都市部では自治体の判断で緩和が可能)。シェアハウスとして使う場合は、専用居室が9㎡以上あることなど、別の基準がある。
・耐震性を有するなど、規模や構造について一定の基準をクリアしている。
登録された物件の情報は、各自治体のホームページなどで公開されるほか、国土交通省の「セーフティネット住宅情報システム」でアップされる。
耐震改修やバリアフリー化が必要な場合は、
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