貧しい人がエリート教育を受けるチャンスが著しく減る
2017年12月05日
今年の8月29日に、国立教員養成大学・学部、大学院、付属学校の改革に関する有識者会議報告書なるものが提出された。
相変わらず現場の教員経験者が3分の1もいない(世界一の義務教育とされるフィンランドでは、教員経験がないと国家教育委員会のメンバーになれない)、また某新聞社の編集委員なる人は入っているが、教育のユーザーの立場の委員がいない中、綺麗な建前の並ぶよくある報告書だが、その中で「地域の公立学校とは児童・生徒の構成が異なっているために地域のモデル校にはなり得ないとの意見もあり、入学者選考の実施方法を含む国立大学附属学校の在り方や役割を改めて見直すことが必要である。」(斜体字は原文ママ)とされ、「附属学校の本来の使命・役割に立ち返り、多様な入学者選考の方法を実施すべきである。選考にあたっては、例えば、学力テスト等を課さず、抽選と教育実習の実施校かつ研究・実験校であることに賛同する保護者の事前同意の組み合わせのみで選考する方法や、学力テスト等を課す場合であっても、選考に占める学力テスト等の割合を下げることなど(略)も検討されるべきである。」(斜体字は原文ママ)と明記されたために物議を醸しだしている。1953年の東京教育大学付属小学校の入学試験では男子生徒定員20人のところに537人が応募。知能テストと体格検査で24人が振り落とされたあと、抽選で20人を決めていった=東京都文京区大塚
以前から国立大学付属校の本来の役割は教員養成のための実習校であるはずなのにエリート校化されているという批判はあったが、なぜ今のタイミングで蒸し返されたのかはよくわからない。
2020年の大学入試改革で、東大を含めてすべての国立大学をAO入試化しろという答申を出すことでわかるように、現総理が現行の学力エリートが大嫌いであることを背景に、文科省のゆとり教育派が息を吹き返しているのかもしれない。
今回の報告書で、貧しい人がエリート教育を受けるチャンスが著しく減じるだろうが、代々政治家のお坊ちゃんで奥様は大企業のオーナー一族のお嬢様だから、貧乏人のことなど考えられないのかもしれないが、学歴を通じて貧乏から這い上がってきた私のような人間には生理的な嫌悪感を覚える報告書だった。
ただ、冷静に考えた場合、一番の国家的リスクは、大学入試改革と同じく、すべての学校に「改革」を押し付ける、独善的で、リスクヘッジがないことだろう。
確かに大学の付属校という場合、いろいろな種類の子供を教える実習の場にするという考え方は納得できる。低学力の子供を集めて、どのようにそれを補償し、伸ばす教育をやるのかというモデル校にするという考え方もあるだろう。
この報告書に書かれた選考方向の例であれば、学力テストは課さない代わりに学校に協力的な親の子供だけが集まるやり方になっているが、こういう恵まれた環境で実習を受けることが、果たして本来の使命・役割に立ち返ったことになるのだろうか?
あえて、低学力の子、発達障害の子、片親の子、共働き家庭の子、貧困層の子など条件の悪い子供たちの教育をどうするかなどの研究や実習を行うために人的スタッフや指導者に恵まれた付属校が行うというのなら話はわかるが、これでは単なる学力テスト排除といわれても仕方がない。
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