杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター
1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポルタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。
ドラマが模索する新しいビジネスモデル、視聴率を狙わない宮藤官九郎
ドラマの不振が言われているが、ドラマ製作のビジネスモデルも変化してきている。
最近、映像製作会社の関係者からこんな話を聞いた。
「『リング』『ゴジラ』などの日本の映画がハリウッドでリメイクされていますよね。ドラマも“海外でリメイクされるような企画がほしい”とテレビ局側から言われることがあります」
リメイク権を売ることで利益が得られるからだ。ハリウッドでリメイクされたら、それは膨大な収入が期待できる。
テレビドラマは今でもCM収入に依存したビジネスモデルだ。しかし、ネット広告の普及で、企業が以前ほどテレビCMを打たなくなっている。そのため、テレビドラマも新しいビジネスモデルを模索している。
その走りが2002年に放送された宮藤官九郎脚本の『木更津キャッツアイ』(TBS系)である。V6の岡田准一、嵐の桜井翔といった人気アイドルをメインキャストに起用したが、平均視聴率は10.1%と振るわなかった。しかし、DVDが2003年10月の段階で13万枚売れ、ヒット作品となり、映画化も決まった。これ以降、「テレビの事業部(DVDのリリースなどを手がける部署)は元気がある」(芸能プロダクション社員)といった声も聞くようになった。
なぜ視聴率不振だったドラマのDVDがバカ売れしたかといえば、万人受けしなくても、一部のコアなファンを掴んだからだ。主人公が不治の病という定番の“泣かせ”のテーマでありながら、小ネタと言われるちょっとしたギャクがちりばめられ、カラッとした仕上がりになっている。
たとえば、息子が不治の病と初めて知った父親(小日向文世)は、女装して、和田アキ子の『あの鐘を鳴らすのはあなた』を歌う。その歌う様子で悲しみを表現する。分からない人には分からなくても、一部の視聴者からすると「ドラマ史上に残る名シーン」となる。このように、細かいギャグやアイディアが詰まっているので、何度見ても面白い。そのため、DVDが売れたのだ。
宮藤官九郎が脚本を担当する『監獄のお姫さま』(TBS系)も、『木更津キャッツアイ』と同じ作りである。『木更津キャッツアイ』のテーマは「不治の病」だったが、今回は「母性」である。どちらも、いわゆるお涙頂戴のテーマだが、それをコメディタッチに仕上げ、乾いたテイストにするのが宮藤官九郎(以下、クドカン)のオリジナリティだ。今回は小泉今日子、菅野美穂、満島ひかり、森下愛子、坂井真紀という豪華な女優陣たちが「女の連帯」を演じ、笑いを誘う。
彼女たちは5年間もかけて、緻密な誘拐計画を立てるが、
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