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高齢男性の心の隙間に入り込んだ筧千佐子被告

青酸連続変死事件で死刑判決、認知症を患う被告の裁判の審理に課題

小野一光 ノンフィクションライター

被告人質問に答える筧千佐子被告。感情をあらわにして逆質問を繰り返す場民も目立った=2017年8月7日、京都地裁、絵・岩崎絵里拡大被告人質問に答える筧千佐子被告。感情をあらわにして逆質問を繰り返す場民も目立った=2017年8月7日、京都地裁、絵・岩崎絵里
 今年11月7日、京都地裁は3件の殺人罪と1件の強盗殺人未遂罪に問われていた筧千佐子被告(71)に対して、死刑判決を言い渡した。

  2013年12月に自宅で死亡した京都府の筧勇夫さん(当時75)の体内から青酸化合物が発見されたことが端緒となったこの事件は、妻である千佐子被告と過去に結婚や交際をした大阪府、兵庫県、奈良県の高齢の男性が、次々と死亡していたことが判明したことで、連続殺人事件の疑いが強まり、捜査が始まった。

  千佐子被告は彼らの死亡によって、土地建物や遺産を相続して多くの資産を得ており、入念な捜査の結果、残された血液や胃内容物から青酸化合物が検出された京都府と大阪府の2人と、死亡時に残された診療記録などから青酸中毒死であると判断された兵庫県の2人の計4人について起訴された。ちなみに、被害者の年齢はいずれも当時70代である。

  この「青酸連続変死事件」の公判では、結婚相談所を通じて知り合った千佐子被告と被害者たちの交際時の様子が詳らかにされた。そこでは千佐子被告が交際時に送ったメールの文面なども公開されており、彼女がいかにして高齢の男性を籠絡していったかが窺えるものだった。たとえば筧勇夫さんに対しては以下のような文面を送っている。

  〈おはよう。昨日はありがとう。勇夫さんの愛と信頼に、あなたのもとに行く気持ち、ゆるぎないものになりました。私のような愚女を選んでもらいありがとう。これからは2人で幸せを見い出していきましょう。愚女ですがよろしゅうにお願いします〉

  また、勇夫さんの兄弟にこの年齢での結婚を反対された際に、千佐子被告は次のようなメールを送っていた。

  〈昨夜のメールの内容、しっかり承りました。日本国の法律では成人したら誰の許可なしに自由に結婚できます。たとえ親の許可なしでも結婚でき、兄弟は法外です。兄弟に経済援助を受けるなどの事情があれば話すべきでしょうが、健全な体と経済的に自立していれば自由に結婚できます。兄弟の呪縛から解放されて、2人で楽しく生きていきましょう。私はどこまでもついていきます。愛する夫さまへ〉

  私自身の取材では、事件化された被害者4人のほかに、7人の結婚または交際相手が死亡しており、最初の結婚相手を除いては、そのいずれもが高齢者だ。

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筆者

小野一光

小野一光(おの・いっこう) ノンフィクションライター

1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。著書に『完全犯罪捜査マニュアル』『東京二重生活』『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』ほか。最新刊は尼崎連続変死事件をルポした『家族喰い-尼崎連続変死事件の真相-』。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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