倉沢鉄也(くらさわ・てつや) 日鉄総研研究主幹
1969年生まれ。東大法学部卒。(株)電通総研、(株)日本総合研究所を経て2014年4月より現職。専門はメディアビジネス、自動車交通のIT化。ライフスタイルの変化などが政策やビジネスに与える影響について幅広く調査研究、提言を行う。著書に『ITSビジネスの処方箋』『ITSビジネスの未来地図』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
いま実施してもビジネスイノベーションは起こらない
電波オークション導入という昔懐かしい議論が再び目を覚ましたようだ。
首相官邸主導の規制改革推進会議で9月から導入検討を行い、11月29日、安倍首相に答申を提出し、いったんは見送り(電波利用料の通信・放送格差見直し)となった。産業政策として見ると「今さらどうした?」という印象はぬぐえない。
この論点はこの15年ほど、政権にかみつく報道が過熱すると出てくるという陰謀説的な面もないではないが、今回は「3本目の矢」(国際競争力ある経済成長の牽引分野)がいつまでも見つからず、堅調な景気と産業政策の因果関係を作り出せずに焦るアベノミクスに、財政増収も兼ねて‘落穂拾い’あるいは‘発掘’された形に見える。
一方で11月には総務省で電波有効利用成長戦略懇談会が設置されているが、ここでの電波オークション導入をめぐる議論は低調のようで、首相官邸(本件の意思の所在は財務省)と総務省との温度差は今回も出現しているようだ。
現行の日本の電波利用料制度と、OECD加盟国のほとんどで導入済の電波オークション制度の詳説は他の文献に譲る。世界共通の資産である無線電波の周波数帯のうち、各国内でのみ使われる電波出力の案件について、政府が企業に割り振るのではなく、競争入札にするのが電波オークションである。
高い落札費用を払ってでも取り組みたい新規参入企業がよりよいサービスを考案して国民生活と経済に便益をもたらす、その初期費用は税収になるので政府もお得、既存利権の打破という錦の御旗にもなる、という程度の概説にとどめる。
もともとは2000年手前頃、欧米諸国にならって(1996年に米国が別の事情から導入)日本も電波オークションを導入すれば通信・放送とも市場競争が喚起され、より高質・低価格のサービスが進むだろう、テレビ放送局と(事実上親子関係にある)新聞社の利権打破、ついでに総務省(当時郵政省)の利権打破だ、という方向で検討された経緯があった。
確かに当時はインターネットも携帯電話も飛躍的に伸びる産業として十分想定され
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