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ドラマ『きみ棲み』を楽しめるか否かの差は(下)

DV描写は恋愛ホラー、残酷なスプラッタシーンを楽しめるか否かは嗜好の問題か

杉浦由美子 ノンフィクションライター

鮫が人を襲うスリラー映画『ジョーズ』のような

TBSドラマ「きみが心に棲みついた」で星名役を演じている向井理=2017年6月12日、福岡市博多区拡大TBSドラマ「きみが心に棲みついた」で星名役を演じている向井理=2017年6月12日、福岡市博多区
 昭和の時代に、『ジョーズ』というアメリカのスリラー映画シリーズが大人気だった。人びとが海でのんきに泳いでいると、鮫が現れて、襲いかかるという内容だ。スプラッタ映画でもある。私はあの映画を子供の頃に見に連れて行かれ、恐怖と嫌悪感で上演中ずっと目をつぶって、耳をふさいでいた。しかし、周囲の大人たちは興奮した様子で、鮫が人をかみ殺すシーンを堪能していた。

  DV描写も『ジョーズ』と同じではないか。現実にはあってはならない暴力シーンを客観的に楽しめるか否か。それは基本的に嗜好の問題だ。

  そして、日本は独自の成熟した文化を持つ国で、女性層のフィクションへのニーズも西洋の価値観では理解できないユニークなものになっている。

クズ男に振り回されたいという妄想

  以前、『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(2015年アメリカ)という映画について記事を書いた。イギリス人女性がネット上に発表し、書籍化され、ベストセラーとなった小説の実写化で、映画は世界中で大ヒットしたが、日本ではまったく興行成績が伸びなかった。

  ヒロインは学生新聞の記者として、イケメンセレブ経営者を取材する。その場でヒロインは相手に見初められる。ゴージャスなデートや高価なプレゼントと引き替えに、彼はSM行為を要求してくる。ヒロインは彼の性癖を受け入れることができず、去って行くという物語だ。

  なぜ、この映画が日本で受けなかったか。イケメンでお金持ちの男、ヘリコプターを使ったリッチなデート、といったアイコンは、日本人女性からすると「バブリーでダサいもの」でしかなかったという分析もあったし、実際、そうであったと思う。

  もうひとつ、この映画に日本人女性が食いつかなかった理由として、ヒロインが男の暴力を受け入れなかった点だと一部から指摘があった。彼は愛する女性を縛ったり、鞭で叩いたりしないと満たされない。それは病である。その彼の欠点に寄り添わず、拒否するというヒロインの行動に、日本人女性は感情移入できなかったのだろう。

  自分に暴力を振るう男がいたら拒否する。それは現実世界でやるべき行動だ。しかし一方で、フィクションの中では、そういう甘美な弱い“クズ男”に振り回されたいという妄想が、日本人女性にはあるのではないか。

イーブンな関係性だからこそ暴力は起きる

  男が恋人や配偶者に振るう暴力が、フィクションの中で、愛情表現として描かれていることをもう少し見ていこう。

  大正時代に岡本綺堂が書いた『番町皿屋敷』という歌舞伎の戯曲がある。 ・・・続きを読む
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筆者

杉浦由美子

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター

1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポルタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。

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