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生きる意味を見いだすための介護の自立支援(上)

適切なリハビリや食事のケアで寝たきりから脱出できた例がある

町亞聖 フリーアナウンサー

奪われる人間としての「自立」と「尊厳」

 4月からの介護報酬の改定は「自立支援」に重点を置いたものになる。2016年11月に開催された政府の未来投資会議で安倍総理は介護報酬を自立支援の効果を反映したものに転換するように厚生労働省などに指示し、さらに「介護がいらない状態までの回復を目指す」と明言した。

要介護者の改善に成果を上げた介護サービス事業者に多くの介護報酬が支払われるようになる。平行棒につかまりながらスクワットをする利用者ら=2017年7月6日、群馬県高崎市拡大要介護者の改善に成果を上げた介護サービス事業者に多くの介護報酬が支払われるようになる。平行棒につかまりながらスクワットをする利用者ら=2017年7月6日、群馬県高崎市
  そもそも介護保険には自立支援の精神が明記されている。スタートから18年が経ち何を今更と感じているのは私だけではない。しかも要介護度が重いほど手厚い報酬が払われる制度の在り方への疑問の声は、現場からはもう何年も前からあがっていた。国に言われるまでもなく、適切なケアや支援により要介護度が改善されたケースにインセンティブを付ける試みを率先して実践している自治体は多くはないが存在する。

  ただ、全ての介護事業所で適切な自立支援が行われているわけではないという指摘は正しく、食事、排泄、移動など利用者へのお世話が介護職の仕事であると思い込み過剰な介護が行われ、本人の自立を妨げている現状があるのも事実である。

  さらに介護現場だけでなく高齢者が肺炎などの治療で入院し、病気は治ったものの自宅や施設に寝たきりの状態で病院から戻ってくる、という話を残念ながらよく耳にする。医療で命は救われたとしても、退院後の患者の生活の質を考慮せずに、誤嚥性肺炎のリスクを避けるために、本当は経口摂取が可能なのにも関わらず本人の意思を無視して胃ろうが選択されてしまっている。

  家族を含めて医療や介護の現場に携わる全ての人が自問自答すべきことは、自分たちの手で自立の機会や人としての尊厳を奪ってしまっていないか、ということである。今一度言う。それぞれの「自立」を支援することは当たり前のことである。深刻な問題なのは、自立が可能なのにも拘わらず介護が必要な状況に追い込まれている人がいる、ということである。

  諦めず、決めつけず、思い込まずに、尊厳が奪われている人の声なき声に耳を傾け、回復の可能性を引き出し人間らしい自立した生活や人生を取り戻すことに成功している首都圏にある有料老人ホームの事例を紹介したい。そして“医療の限界”を知ることが“介護の可能性”を広げることに繋がるということに気付いてもらえればと思う。

飛び降り自殺まで考えた女性が社会参加するまでに

  肺炎による入院で自閉傾向となり、さらに認知機能の低下やうつ症状が見られた86歳の女性。医師の診断は“双極性障害”で精神科病院への入退院を繰り返した結果、飛び降り自殺を図るまで追い込まれ家族による介護が限界となりこのホームへ入居した。

  一般的にも双極性障害の治療は時間もかかり難しいと言われているが、このホームのスタッフは精神的な病気だからと決めつけることはしなかった。薬による治療ではなく、うつ症状が現れているのは体力や活動力が低下していることが原因ではないかと考え、定期的な運動やリハビリなどの基本的なケアを実施した。

  そしてホーム内だけでなく地域サロンでの体操など社会参加を促し役割や仲間を作っていく支援を行った。その結果、体調が整ったことで幻覚や幻聴の症状も徐々に無くなったという。つまり ・・・続きを読む
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筆者

町亞聖

町亞聖(まち・あせい) フリーアナウンサー

1995年、日本テレビにアナウンサーとして入社。その後、報道局に移り、報道キャスター、厚生労働省担当記者としてがん医療、医療事故、難病などの医療問題や介護問題などを取材。2011年、フリーに転身。脳障害のため車椅子の生活を送っていた母と過ごした10年の日々、母と父をがんで亡くした経験をまとめた著書『十年介護』を出版している。現在、TOKYO MX「週末めとろポリシャン」(金曜午前11時~12時)、文化放送「大竹まこと ゴールデンラジオ」(水曜午後1時~3時30分)などに出演。

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