2018年06月14日
今年は、我が国の耐震基準の制定に大きな影響を与えた3つの地震の周年に当たり、先月、今月にそれぞれ周年を迎えた。1948年6月15日に発生した福井地震、1968年5月16日に発生した十勝沖地震、1978年6月12日に発生した宮城県沖地震の3つである。福井地震の2年後に建築基準法が制定され、十勝沖地震を契機として新耐震設計法の開発が行われ、宮城県沖地震の3年後に建築基準法施行令が改正され新耐震設計法が導入された。
福井地震は、1948年6月28日16時過ぎに発生したM7.1の直下地震である。軟弱な堆積層に覆われているため地表に活断層は現れなかったが、福井平野東縁断層帯西部が活動したと考えられている。この断層の南南東には、1891年に濃尾地震を起こした根尾谷断層帯や、1945年に三河地震を起こした深溝断層などがある。
福井地震の最大震度は6だったが、軟弱な地盤の福井平野を中心に強い揺れに見舞われた。地震後にまとめられた福井地震震害調査報告II建築部門によると、平野内の家屋の全壊率は9割にも及び、福井市内でも8割になった。この結果、全壊家屋約3万6千、焼失家屋約4千、死者3769名にも上った。1995年兵庫県南部地震に比較して、全壊率・死亡率共に遥かに高く、両地震の被害調査をした研究者は福井地震の被害の凄まじさを語っていた。気象庁は、この地震を契機に震度 7を新設したが、初めての震度7は兵庫県南部地震まで待つことになった。
この地震では、市内で最も高層だった鉄筋コンクリート(RC)造の大和デパートが倒壊したことは有名である。福井地震震害調査報告II建築部門によると、当時、福井市内には45カ所にRC造建物が建築されており、戦災による火災を経験したものが多かったが、地震の揺れによって全壊した建築物は大和デパートも含め数棟に留まったようだ。木造家屋に比べると、被害は少なかった。ちなみに、大和デパートの隣に建っていたRC造3階建の酒伊ビルは無被害で、現在も銀行のビルとして使われている。
福井地震の直前には、1943年鳥取地震、44年東南海地震、45年三河地震、46年南海地震が発生しており、1943年から48年にかけて千人以上の死者を出す地震が5つも発生した。また、敗戦1カ月後には45年枕崎台風、47年には首都が水没するカスリーン台風が来襲した。まさに、戦災、震災、風水害が続いた直後に建築基準法が作られた。
建築基準法は、1947年5月3日に施行された日本国憲法に則って、1919年に制定された市街地建築物法に代わって、新たな建築基準として1950年5月24日に制定され、同年11月23日から施行された。1923年関東地震での甚大な被害を受けて、1924年に市街地建築物法に導入された耐震規定も、建築基準法に規定された。そこには、戦中戦後の地震災害の教訓が反映されたと考えられる。
建築基準法は、その第1条に、「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。」と記されているように、最低の基準を定めているに過ぎない。この法律の下に、施行令、施行規則、関係告示が定められている。我が国の建築物は、これらの建築基準関係規定に適合して設計がされている。この中に耐震基準も含まれている。
建築基準法によると、建築物とは、土地に定着する工作物うち、屋根と柱もしくは壁(これに類する構造のものを含む)を有するものを原則とし、建築設備を含んでいる。これに加えて、付随する門・塀、観覧用の工作物、地下・高架の工作物内の施設なども建築物に含まれる。ちなみに、基礎に緊結されず随時・任意に移動可能なプレハブ物置などは建築物とはされず、カーポートは柱と屋根があるので、原則として建築物に含まれる。
建築物の設計・工事監理は、建築士試験に合格した建築士によって行われ、建築物規模等に応じて、一級建築士、二級建築士、木造建築士の3種類の建築士が担っている。設計に当たっては、計画・意匠、構造、設備の3側面から検討が行われるが、耐震安全性の検討を担うのが構造設計である。高度な構造計算を要する高さ20mを超えるRC造の建築物など一定規模以上の大規模な建築物の構造設計については、構造設計一級建築士が関与する必要がある。構造設計一級建築士は、一級建築士のうち5年以上の構造設計に関わる業務経験を持ち、構造設計一級建築士講習を受講して修了考査に合格した者である。
建築物を建築するには、建築主は建築確認を受けて、確認済証の交付を受ける必要がある。建築確認では、建築基準関係規定の適合性について確認する。確認を行うのは、地方自治体の建築主事や指定確認検査機関の建築基準適合判定資格者である。一定規模以上の建築物については、これに加え、都道府県知事又は指定構造計算適合性判定機関による構造計算適合性判定が義務付けられている。判定を行う構造計算適合性判定員は、大学等で建築構造を担当する教授若しくは准教授、試験研究機関において建築構造分野の試験研究の業務に従事し高度の専門的知識を有する者、およびこれらと同等と認められた者などである。
建築基準法では、20条で、「建築物は、自重、積載荷重、積雪荷重、風圧、土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対して安全な構造のものとして、次の各号に掲げる建築物の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める基準に適合するものでなければならない。」と記しており、建築物区分ごとに安全性を確認する。
ここでは、
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