京都の撮影所が育む殺陣と時代劇の伝統
2018年07月09日
映画やテレビドラマの最後に流れるテロップのなかに、高津商会という名が記されている。時代劇の刀や屏風からバラエティー番組のセットまで、あらゆる小道具を扱う専門業者だ。もとは京都で道具屋を営んでいたところを、‘映画の父’と謳われた牧野省三に頼まれ映画で使う道具を揃えるようになったのが始まり。今年で100年を迎える。
高津商会は映像美術のエキスパートであるが、業界のみならず一般人にも小道具を貸し出してくれる。私も何度も時代劇の道具を借りたことがあるが、ところがどっこい、素人にはそう簡単に扱えない代物ばかり。たとえば、水戸黄門に登場する印籠ひとつとっても、どう使うべきものなのか、見当もつかない。
東映京都撮影所を拠点に役者稼業45年の細川純一さんから、最近こんな話を聞いた。
「水戸黄門の連続時代劇が終わって7年、時代劇の系譜は途絶えたと危惧しています。当初はそうも思ってなかったのです。ところが2、3年経ったころから、どうして皆、当たり前のことができなくなってきたんだろうと違和感を覚えるようになりました」
俳優をする傍ら、東映の俳優養成所で講師も務めている細川さんは、連綿と受け継がれてきた時代劇の所作が、崩れてうやむやになっていくのを現場で目の当たりにしているという。時代劇の心得のない俳優が、東京からやって来て、数時間のにわか仕込みで撮影に臨む。たとえ間違った所作をしていても、その間違いをスタッフも監督も気づかない。ゆえに滅茶苦茶な所作のまま放映され、罷り通っているのが昨今の時代劇だという。
細川さんは高校時代、鶴田浩二の映画にハマり、熱烈なファンレターを送って、撮影所に日参し、粘りに粘って数年越しで付き人から俳優になった経緯を持つ。
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