東京・目黒の船戸結愛ちゃん虐待死事件 児童相談所と警察の間の全件情報共有は疑問
2018年07月19日
「もうおねがい ゆるして ゆるしてください おねがいします」
今年3月に東京都目黒区で父親(33)から虐待を受けて死亡したとされる船戸結愛(ゆあ)ちゃん(5)がノートにつづっていた言葉は、社会に衝撃を与えています。
結愛ちゃんは、朝4時に起きてひらがなの練習をするように言われていたと伝えられています。父親は実の父親ではなく、結愛ちゃんは母親(25)と母親の前の夫との間の子どもです。
朝日新聞によると、結愛ちゃんへの虐待が最初に疑われたのは、2016年6月から8月にかけてです。当時住んでいた香川県善通寺市の自宅で、大声で泣いているとの通報が児童相談所に寄せられたことが始まりです。父親に怒鳴られ、「ごめんなさい」と泣き叫ぶ声が聞こえたと伝えられています。当時、児童相談所(香川県西部子ども相談センター)は2度家庭訪問したけれど、会えなかったそうです。
同じ16年のクリスマスの夜に、結愛ちゃんが自宅の外でうずくまっているのを近隣住民の女性が見つけて、警察に通報しました。冬なのに結愛ちゃんはピンクのパジャマ姿で裸足。「パパ怖い」「(家に)帰りたくない」と言ったそうです。
このとき、「パパにたたかれた」と言う結愛ちゃんが唇と耳などにけがをしていたのを確認した児童相談所が一時保護をしました。しかし、翌17年1月、父親が「もう殴らない」と約束したとして、児童相談所は2月に一時保護を解除、結愛ちゃんを自宅に戻しました。
ところが、3月になると、今度は警察官が自宅近くでけがをした結愛ちゃんを発見します。それを受け、児童相談所は2度目の一時保護をしました。4月には児童相談所が両親に結愛ちゃんの施設入所を提案しましたが、断られたそうです。
それなのに、7月には2度目の一時保護が解除され、結愛ちゃんは自宅に戻ります。児童相談所は、施設入所が必要だと判断すれば、児童福祉法28条に基づいて家庭裁判所に申し立て、それが認められれば、親の同意がなくても、子どもを施設に入所させることができます。なぜ、28条の申し立てをしなかったのでしょうか。どうして、家庭に戻すという判断をしたのでしょうか。
警察は2月と5月に2回、父親を傷害容疑で書類送検しましたが、いずれも不起訴となりました。まさか、その結果に引きずられたというようなことはなかったのでしょうか。不起訴となったということは罪を問われないというだけで、虐待がなかったということではありません。
警察や検察が事件の立件を見送ったからといって、子どもが安全であるとは限りません。警察や検察の虐待加害者を摘発するアプローチと、児童相談所が子どもを守るという視点は異なる方向のものです。不起訴になろうが、児童相談所は自らのプロの目線で子どもが安全な環境にいるのかを判断しなくてはなりません。
一時保護を解除した児童相談所は、結愛ちゃんの両親への指導措置を始めました。自宅を訪問して、結愛ちゃんの様子を見ていたようです。しかし、自宅に戻した後の8月末と9月には、病院が結愛ちゃんにあざがあるのを見つけ、児童相談所に2度通報しています。結愛ちゃんは「パパにされた。ママも見てた」と訴えましたが、母親が「知らない」と答えたために、児童相談所は一時保護を見送ったと伝えられています。この時点でなぜ、児童相談所が結愛ちゃんを保護するという判断に至らなかったのか、疑問が残ります。
その後の17年12月に父親が東京都目黒区に転居。それからまもなくの今年1月はじめに、結愛ちゃんがけがもなく、健康的な生活ができているとして、児童相談所は指導措置を解除しました。その後、母親に連れられて結愛ちゃんは転居していきます。母親は児童相談所に転居先を告げることを拒否したそうです。
生活環境が変わるということは虐待のリスク要因となります。落ち着いたと思われていても、転居によって状況が一気に変わる可能性はあります。どうしてこの時点で指導措置を解除してしまったのだろうかと思わずにはいられません。
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