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オウム死刑執行、ヨーロッパの見方

死刑の存廃はその国の歴史と文化に根付いたものか? 国民意識は変わらないのか?

佐藤舞 英国レディング大学法学部准教授

日本では死刑が執行の情報が入るたびに死刑囚の顔写真に「執行」のシールを貼って状況を伝えたメディアも=2018年7月6日拡大日本では死刑が執行の情報が入るたびに死刑囚の顔写真に「執行」のシールを貼って状況を伝えたメディアも=2018年7月6日

日本に死刑制度があることを知らない英国民

 13人が死亡、6千人以上が負傷した地下鉄サリン事件が起きた1995年。私は東京都内の中学生だった。

 クラブ活動の合宿に参加していた私は、親が事件に巻き込まれていないか確認するよう教員に指示された。幸いにも父は無事だったが、30分の差で事件に巻き込まれていたかもしれなかった。オウム真理教に関する報道は連日続き、身近で起きた無差別事件への戸惑いと、 日常とかけ離れたカルト集団の思想と生活を不気味に感じながら、何時間もテレビ報道を観ていたのを覚えている。

 事件発生から23年たった今、私はイギリスのメディアを通して、一連オウム事件の死刑確定者13人に死刑が執行されたことを知った。イギリス国民の多くは、日本に死刑制度があることを知らない。英・テレグラフ紙は、 7月6日の麻原彰晃を含む7名の死刑執行を受け、「地図で見る未だに死刑のある53カ国-日本も含む(Mapped: The 53 places that still have the death penalty – including Japan)」という記事を掲載した。

注目すべき「いまだに」という単語

 注目すべきは、記事の題名に含まれた単語「いまだに(still)」である。死刑は時代遅れの刑罰であり、死刑存置国は国際的動向から外れているというのがイギリス・メディアの感覚だ。

 同記事は、海外から見た日本のイメージと「死刑存置国・日本」が相反すると以下のように述べている。「穏やかな寺と近代的社会で知られる日本がいまだに死刑を存置していることは多くの人にとって驚くべき事実だろう。(It may come as a surprise to many to learn that Japan, a nation associated with tranquil temples and modernity, still has the death penalty.) 」

絞首刑は野蛮な処刑方法

 私が受けたBBCラジオの取材でも、一連のオウム事件や今回の死刑執行のタイミングについてではなく、「執行方法がなぜ絞首刑なのか」に焦点が当てられた。この質問の背景には、日本が死刑存置国であることに対する驚きに加え、絞首刑が古く野蛮な処刑方法であるという認識に基づいている。

 アメリカが1980年代以降、絞首刑もより確実性の高く、「残虐性」の低い死刑執行方法を目指し、電気椅子や薬物注射に変えていったことが背景にある。(ちなみに私は、死刑はどんな手法を利用しても残虐であるという立場をとり、さらにアメリカの死刑は、安全なものにも残虐性の低いものにもならなかったと考える)。日本の秘密主義と違い、アメリカ政府は、死刑の執行方法や死刑確定者の執行の順番など死刑の様々な情報公開をしているため、廃止国のイギリスは、日本が執行方法を変えていないことを知らなかったのであろう。

死刑を存置する先進国は日本とアメリカのみ

オウム真理教元代表の松本智津夫死刑囚ら7人の死刑執行について、会見する上川陽子法相=2018年7月6日拡大オウム真理教元代表の松本智津夫死刑囚ら7人の死刑執行について、会見する上川陽子法相=2018年7月6日

 世界的に見て、死刑廃止国は過去40年間に急激に増えた。死刑を法律上廃止している国と死刑の執行を停止している事実上廃止国は、1977年は16カ国に過ぎなかったが、2017年には142カ国に増え、その数は全世界の3分2の国に達している。また、主要先進国のうち、死刑を存置しているのは日本とアメリカのみである。そのアメリカでも死刑廃止の動きは2000年以降高まり、死刑を廃止・停止する州が増えただけでなく、死刑を存置している州でも、死刑の判決数と執行数は減少を続けている。

 イギリス政府は、1964年の死刑執行を最後に、死刑制度を法律上徐々に廃止していった。妻と娘を殺害した罪で絞首刑に処された後に、真犯人が現れた「エヴァンス事件」は、司法に対する国民の信頼に大きな衝撃を与えた。イギリスの死刑廃止の歴史は、上記の冤罪(えんざい)事件に加え、国家は生命剥奪(はくだつ)に関与すべきでないという考えが、議員の多数派を占めたことが影響している。

 死刑存置国にとって、死刑はその国の歴史と文化に深く根付いたもののように感じられるであろう。ヨーロッパ諸国(ベラルーシ共和国を除く)が死刑を廃止できたのは、ヨーロッパ特有の歴史または文化によるものであると思うかもしれない。

不変ではない国民意識および文化

 歴史と文化はもちろん、それぞれの国の刑事政策を理解する上で重要であるが、 ・・・ログインして読む
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筆者

佐藤舞

佐藤舞(さとう・まい) 英国レディング大学法学部准教授

英国レディング大学法学部准教授。ロンドン大学キングスカレッジ校法科大学院で博士号取得。専門は犯罪学。著書『Death Penalty in Japan(日本における死刑)』で、第 13 回日本犯罪社会学会奨励賞を受賞。著書『世論という神話: 日本はなぜ、死刑を存置するのか』(ポール・ベーコンと共著)を原作にしたドキュメンタリー映画『望むのは死刑ですか 考え悩む“世論”』 を企画。日本の死刑に関する情報を提供するウ ェブサイト「CrimeInfo」(www.crimeinfo.jp)をNPO監獄人権センターと共同運営。