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あるカミングアウトが生んだLGBTネットワーク

上司と部下、ふたりの会社員がはじめたLGBT支援が日本を変える(上)

浅尾公平 会社員

東京地方裁判所での講演会で語る藤田さん(右)と稲葉さん(中央)=2015年11月拡大東京地方裁判所での講演会で語る藤田さん(右)と稲葉さん(中央)=2015年11月

 状況が変わり始めたのは2009年のことだった。一時期GSを離れていた藤田さんが再入社して法務部長に就任し、稲場さんは部下となる。同時にその前後から、GSは全社的にLGBT支援の取り組みを、以前にも増して活発に行うようになった。

 LGBT問題をテーマに、研修、パネルディスカッション、映画鑑賞会、識者を招いての昼食会など、社内でさまざまな試みがなされた。藤田さんはそれらに出席し、やがて企画する立場にもなっていく。しかし当時はまだ、今ほど積極的にサポートしていたわけではなかった。

 「私は法務部長として管理職研修に出席していましたが、その一つに、LGBTに関するプログラムがあったんです。でもそのときは『LGBTってどこかで聞いたことがあるな』くらいの認識で、L(レズビアン)とG(ゲイ)とB(バイセクシュアル)とT(トランスジェンダー)がそれぞれ何なのかもわからなかったし、カミングアウトした知り合いも1人もいませんでした。

 しかし、研修を受けていく中で、LGBTの問題は非常に重要だと思うようになりました。だから真面目に受講しましたし、学んだことを周りに伝えることも大事だと考え、法務部の部会では稲場たち部下にその都度きちんと報告していた。ただ、研修を受けてその内容を人に伝える以上のことは、何かしたいと思ってはいたんですが、まだ行動には移せませんでしたね」(藤田さん)

 それでも上司からの熱心なフィードバックは、稲場さんの気持ちを少しずつ動かしていった。GSでLGBT支援の取り組みがさかんに行われるようになった当初、稲場さんは「これは一過性のものではないか」と疑っていた。しかし、動きはまずます強化されるばかりで、社内の意識も高まっていく。

 中でも、藤田さんが研修などで学んだことを情熱的に伝えてくれるのを受け止めるうちに、稲場さんの中で、「こんなに上司が頑張ってくれているのに、当事者の自分が黙っているのは申し訳ない。いつかカミングアウトしたい」
という思いが生まれ、次第に強くなっていった。

 とはいえ、それまで何十年間も自分の性的指向を人に明かしていなかった稲場さんにとって、当然、カミングアウトに踏み切るのは簡単ではなかった。信頼する上司の藤田さんが相手でも、どんなタイミングでどう話せばよいかわからない。

 そのきっかけが、あるとき、まるで天の啓示のようにいくつか集中的に訪れる。2015年5月のことだった。

多くのきっかけが重なって、決断へ

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筆者

浅尾公平

浅尾公平(あさお・こうへい) 会社員

会社員。仕事をしていないときは、本を読んだりコンサートに行ったり落語を聴いたり野球を観戦したりしています。執筆記事における見解はすべて個人的なものであって、勤務先の意見を代表するものではありません。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです