杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター
1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポルタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
女子学生が医師を目指す理由は「転職力」だが、大学は長く医局で働く人材を確保したい
前回は医学部入試で女子が不利になる調整がされていた問題で、理由とされる「女性医師の退職リスク」のからくりについて書いた。「今どき、結婚や出産で医師を辞める女はいないだろう」と憤る人も多いが、それは読み違いをしている。
彼女たちは結婚や出産等々のきっかけで、医師を辞めるわけではなく、大学の医局を辞めるのだ。医局を辞めても、外には条件のいい仕事が沢山あるのだから。出産をしたら、子供を養うためにも、待遇がいい仕事に転職したいのは当然だろう。
医局を辞めて、民間のクリニックに常勤で再就職すると、労働時間は短くなって年収があがる。また、最近、増えているフリーランス麻酔医たちは効率的に稼いでいる。この「転職力」があるから女子学生は医師になりたがるのである。
女子は「転職力」を求めて医師になるが、医学部が求めるのは長く医局で働いてくれる人材である。そこでのミスマッチが起きて、東京医科大学では女子を入試で不利にしていた。
今回、各医学部の女子の割合を示したデータを確認したり、関係者にも取材したりしたが、他にも女子に不利になるように入試で調整をしていたと推測される大学はいくつかある。私立医学部で経営が楽ではなさそうなところにも見える。
そういう現状の中、採用試験を兼ねた入試で退職リスクが高い人間(女子受験生)を不利にすることは差別なのだろうかという疑問もでてこよう。
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