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日本のメディアは大丈夫か

政府から独立した日本版FCCの創出を急げ

柴山哲也 ジャーナリスト

 

拡大日本の「表現の自由」の現状について会見するデービッド・ケイ氏=2017年6月2日、東京都千代田区

報道の自由度国際ランク11位から72位へ急落の意味

 長らくメディアにかかわってきた者として、日本のメディアは大丈夫か、という思いを今日ほど強くした日々はない。

 日本の報道の自由度の国際ランクはここ数年、後進国並みの70位前後をウロウロしている(昨年72位、今年67位)。アジアでも台湾(42位)、韓国(43位)よりはるか下で、昨年はモンゴルの下になった。日本の言論機関とジャーナリズムは大丈夫なのか。われわれはいつの間に、民主主義先進国の自負をなくしてしまったのだろうか?

 もともとランクが低かったわけではない。9年前の政権交代時の民主党・鳩山政権時代の国際ランクは11位と、北欧諸国に肩を並べたことがあった。記者クラブ制度の自由化と改革、記者会見へのフリーランスの参加、官庁の情報公開進行のほか、原口総務大臣(当時)の下で電波規制当局を総務省からはずす日本版FCC(米国の連邦通信委員会がモデル)の創設、メディアの集中を規制するクロスオーナーシップ廃止など、先進国として遅れていた電波監理と放送制度の諸改革を戦後初めて実行する法案の国会提出が行われた時代でもある。

 言論の障壁をなくすのだから、新聞記者やメディアにとっては希望の時代だった。しかし鳩山政権が試みたメディア改革の試みは、その後の相次ぐ政権交代の連鎖の中で挫折した。この夏に経験した命の危険のある猛暑と大災害と共に、メディア自身も崖から転がり落ちる危機の時代に至っていることを実感したのだ。

 72位に急落した昨年以来、安倍政権は国民世論の現実から目を背け、モリカケとか一部の政財界、人事権を握った高級官僚らの限られた仲間の人々の得になるような政治を推進していることが誰の目にも明らかになっているのに、国会で多数派を占めている自民党は自分たちの間違いを糺(ただ)せないでいる。役所の文書改竄は当たり前、国会でも平然と嘘をつく、国民に奉仕すべき政治家、公務員という人々が、私利私欲で動いているように見える。文科事務次官だった前川喜平氏のような立派な人もいるが、それは例外だ。

注:報道の自由度ランキング パリに本拠を置く国際的ジャーナリストの団体「国境なき記者団」が世界180国の報道の自由度を、国家権力による記者の抑圧、暴力の有無、人権の棄損などをはじめ、メディアの独立性 、多様性 メディアの環境、 自己規制の有無、 メディア会社の経営基盤、 透明性の確保 などを項目別に調査して点数を出し、その合計点で国別ランキングを出している。報道の自由度のランキングを数字で表している。

大阪北部地震、西日本豪雨災害の情報飢餓とテレビ

 行政の機能不全の実害も起こった。大阪北部地震の政府対応が鈍かったので、私の住む関西近郊の被害はなかなか全国に伝わらなかった。その後の中国、四国や近畿圏を襲った大水害もそうだ。比較的災害が起こらない京都でも、先例がないほどの集中豪雨に見舞われ、鴨川が氾濫するとか、嵐山の渡月橋が危ないという情報が携帯電話の警告でもたらされ、自衛隊の出動が要請されていたが、肝心な自衛隊がどのような動きをしたのかという具体的なニュースや情報はなかった。

 あの時、安倍首相や与党幹部が赤坂自民亭に集合して宴会をやっていたことがわかり、気象庁の大規模豪雨の警告は出ていたのに、豪雨下の災害に対して政府は呑気だった。しかもその翌日にはオウムの大量処刑が実施され、テレビワイドショーは豪雨報道どころか、死刑の公開処刑を思わせる実況中継もどきをやっていた。赤坂自民亭宴席には執行書にサインした上川法務大臣もいた。しかもその時に撮影した宴会写真を得意げにツイッターにアップしたのが危機管理担当の西村官房副大臣だったというから驚きである。

 国民の負託に応えるべき立法府の自民党議員たちの政治感覚は麻痺し、与党多数派だから何をしようと民主主義だととんでもない誤解をしていて、ヒトラーが独裁に至った道の真似をしているのではないかと思った。

 現代では情報伝達のスピードを競うならツイッターとかフェイスブックがまさり、テレビや新聞はSNSに比べて時間差がある。しかし自衛隊出動レベルの大災害時にあっては、SNSの個別情報では信頼度の上でも歯が立たない。個別的なものでなく、国民全体を巻き込むニュース報道となると、組織された巨大なテレビ、新聞の出番だが、影響力の大きさ、強さから見れば、圧倒的にテレビだろう。

 テレビはスイッチを入れれば映像が瞬間的に映り手軽に使える。活字の新聞は新聞社で発行され、各地域に発送され、販売店から読者が受け取って広げて読むまでには相当の時間と労力が必要だ。

 アメリカで9.11同時テロが起こったとき、それまでテレビに飽きていたアメリカの人々はこぞってテレビのスイッチを入れた。ネットは渋滞して役に立たなくなることがあるが、テレビは電源さえあれば有効なメディアになる。アメリカでテレビが主要メディアとして復活したのは9.11以降といわれる。

テレビに忖度を持ち込んだ安倍政権

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筆者

柴山哲也

柴山哲也(しばやま・てつや) ジャーナリスト

同志社大新聞学科大学院を中退後、1970年に朝日新聞記者となり94年に退社。ハワイ大学、シンクタンク東西センター客員研究員等をへて京都女子大教授、立命館大学客員教授。現在はフリーランサー。著書に『日本型メディアシステムの興亡』(ミネルヴァ書房)、『公共放送BBCの研究』(同、編著)、『戦争報道とアメリカ』(PHP新書)、『真珠湾の真実』(平凡社新書)等。