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体操トラブルで最も批判されるべきは悪質暴力行為

宮川選手が訴えないハラスメントと、訴えたパワハラの不思議な構図

増島みどり スポーツライター

パワハラ問題などで記者会見に臨む宮川紗江選手=2018年8月29日、東京都千代田区パワハラ問題などで記者会見に臨む宮川紗江選手=2018年8月29日、東京都千代田区
 8月29日、女子体操・リオデジャネイロ五輪代表(団体総合4位)の宮川紗江(18)が、200人を超える報道陣を前に会見する姿を取材しながら、うまい例えができないが、跳馬で助走を始めたら、なぜか「ゆか」のマットに着地したかのような不思議な感覚を覚えた。スポーツのみならず、指導の現場で厳しく批判されるべき重大なテーマ「暴力行為」が、なぜか全くすり替わって着地しているからだ。

 宮川は「速見(佑斗、34歳)コーチの暴力は許されない。2人で反省はするが、私はパワハラだとは感じていない」「髪の毛を掴まれたが、引きずり回されてはいません」「確かに叩かれましたが、それは自分が気を抜いたからで、馬乗りにはなられていません」とコーチの処分軽減(無期限の登録抹消、NTC=ナショナルトレーニングセンター=での活動禁止)を訴えた。

 しかし、「少なくても」(日本体操協会)2013年9月から18年5月まで5年間で11件が自分への暴力と調査されているのに、自身が受けた明確なパワハラは訴えず、ほかのパワハラを訴えた18歳に、テレビやスポーツ紙の報道が言う「18歳の勇気」ではない違和感を抱き、痛々しく思えた。

 通報に関して、協会、関係者はプライバシー保護の観点から一切明らかにできない。また証言内容、聞き取り調査の報告書を公開しない決まりだ。しかし、速見氏が長く繰り返し常態化していた暴力に「恐怖を覚えた」と、証言したのは、塚原千恵子強化本部長でも、塚原光男副会長でもなく、練習時間、空間を共にする(した)現場の人間たちだ。メディアは宮川の勇気は称賛しながら、暴力に反対した人々の勇気はなぜか置き去りにしている。

 速見氏は31日、「暴力行為は決して許される事ではないと深く胸に刻み、真摯に反省する事をここに誓います」と、地位保全の仮処分取り下げ、「どこ」に「誰に」誓うのかは不明だが謝罪文を出した。

 競技団体は体操に限らず、内規で「処分への反論は、CAS(スポーツ仲裁裁判所、日本ではJCAS)もしくは理事会に提出できる」と反論期間も規定している。所属する団体の規約を飛び越え、暴力行為の一部は間違い、処分が妥当ではない、と裁判で協会と争おうとしたのだからこれにも違和感を持った。

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