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歴史、アジアの視点が示された大地の芸術祭(下)

手作業による新しいコミュニケーションの回路

樫村愛子 愛知大学教授(社会学)

 関係性の重視が、地域振興を主目的に芸術祭の誘致を目指す自治体の思惑に合致してしまい、「関係性の美学」についての理論的支柱は抜け落ちて、ただ人とかかわればいいというあいまいな関係性の美学がここに展開されているという指摘がこうして現れた。光岡寿郎は、美術業界全体が地域活性化という未来志向の社会工学に従属していく現状に警鐘が鳴らされているとした(藤田直哉『地域アート』書評)。

 他にも、熊倉(『日本型アートプロジェクトの歴史と現在 1990年→2012年』2015、アーツカウンシル東京)は、人々の関係そのものを表象の対象とする「リレーショナルアート」や、政治性が色濃く、社会課題を直接議論することを呼びかけて、そこに結集する人たちの力とエネルギーを表現活動とみなす「ソーシャリー・エンゲージド・アート」と、日本の芸術祭が大きく異なる点は、手作業を呼びかけるという穏やかな手法で、人々の間に新しいコミュニケーションの回路を生み出し、継続させてゆくという点だとし、政治性や鋭い社会批評性をあらわにしないのが大きな特徴であると述べた。

 また、ジャスティン・ジェスティ(『日本型アートプロジェクトの歴史と現在 1990年→2012年』2015、アーツカウンシル東京)は、日本のアートプロジェクトについて、それが、アートプロジェクトやそこでのアートが平等性や社会的包摂を目指して、周縁的な文化活動の価値を再考し、周縁化された人々がアートに触れたり、それを評価することを肯定する立場だとした。

 アートの評価をめぐっては、文化政策学会等では、経済や来客数に代わる指標や評価をもって、文化政策における貧しいアート評価に対抗することを考えつつある。

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筆者

樫村愛子

樫村愛子(かしむら・あいこ) 愛知大学教授(社会学)

愛知大学文学部社会学コース教授。1958年、京都生まれ。東大大学院人文社会系研究科単位取得退学。2008年から現職。専門はラカン派精神分析理論による現代社会分析・文化分析(社会学/精神分析)。著書に『臨床社会学ならこう考える』『ネオリベラリズムの精神分析』、共著に『リスク化する日本社会』『現代人の社会学・入門』『歴史としての3・11』『ネオリベ現代生活批判序説』など。

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