変わる家族を描いたドラマ 「逃げ恥」は多様な人生の選択を肯定
2018年09月21日
演出した水田伸生(60)=現・日本テレビ執行役員情報・制作局専門局長=は「悲劇を描きたい」と心に決めていた。「虐待を描くのではなく、人を救うことが法に問われ、罰を受けることになる悲劇性がテーマ」と考えていた。
子どもに対する虐待は重大な社会問題だが、テレビで家族そろって見られるのか。水田の意図をくんだプロデューサーは企画を検討する社内の会議で、「日本中の家族がもらい泣きするドラマです」と説明し、認められた。悲劇の「ひ」の字も触れないことで、「Mother」の制作が実現した。
7歳に設定された子役はオーディションで選ぶことになった。7歳の役だと普通8~10歳の子を選ぶことが多い。プロデューサーが以前のドラマで知り合った事務所のスタッフが連れてきた芦田は当時5歳だった。しかし、200人の参加者の中から1次と2次の選考を通り、最終選考まで残った。水田は「兵庫県出身の芦田は言葉になまりがあり、経験がなかった。環境が変わるなか、4カ月の撮影に体力が持つのか、という懸念する声もあった」と言う。脚本の坂元裕二(51)が「圧倒的にいい」と推したこともあり、芦田の配役が決まった。
撮影が始まると、水田は驚かされる。頭は良く意欲もあったが、オーディションのときは感性が開かれていない、と感じていた。ところが、カメラが回ると、感情があふれ、演技で涙を流せるようになっていた。
初回、芦田と松雪の逃避行の場面は、雪に反射する光にこだわった。虐待の深刻なシーンを、映像美で補おうという思いだった。未来に対する明るさと受け止められたのか、視聴者からの反響は想像を超えてよかった。視聴率も11.8%とまずまずだった。
水田が「東京ラブストーリー」で脚光を集めた坂元に注目したのは、07年4月からフジテレビで放送されたドラマ「わたしたちの教科書」(出演・菅野美穂、伊藤淳史)だった。中学校の校舎から転落死する女子生徒がいじめを苦にしたのではないかと自殺の真相を探る法廷劇に「作風を大きく変えたのでは」と着目した。
テレビドラマが単なる娯楽ではもったいない、メディアが果たす使命があるのではないか、という問題提起とアジテーションを感じていた。物事の切り取り方が独特で、これまでに出会ったことのない脚本家と感じた。坂元なら単純な告発ではなく、誘拐してでも少女を救おうとする人間を掘り下げてくれるはず、と脚本を依頼することにしたのだった。「Mother」では悲劇をつくろうという判断で、坂元と水田は一致した。
虐待の事実を児童相談所に通告することが本当に解決策といえるのか。虐待された子どもを親から引き離す「誘拐」は法律が妨げているかもしれないが、救いになるのかもしれない。そうした思いを間接話法として提示したのが「Mother」だった、と水田は言っている。当然、みんなが幸せになるハッピーエンドは考えていなかった。だから、悲劇をつくろうと決めたのだった。
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