メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

[14]続発した災害から、学ぶべき教訓は何か

福和伸夫 名古屋大学減災連携研究センター教授

 今年の夏は、6月18日に起きた大阪府北部の地震に始まり、7月の七夕前後の西日本豪雨、7月末に逆走した台風12号、7月~8月の記録的な猛暑、9月4日に上陸し高潮と猛烈な風をもたらした台風21号、9月6日に震度7の揺れが襲った北海道胆振東部地震と、大きな自然災害が続発した。これらの災害から学ぶことは何か、考えてみたい。

地震、豪雨、台風、日本を次々と襲った災害

土砂崩れの跡が残る北海道厚真町の吉野地区=9月12日
 6月18日、通勤・通学時間帯にマグニチュード(M)6.1の地震が発生し、最大震度6弱の揺れが大阪北部を襲い、5人の死者が出た。死因は、塀の倒壊や本棚の転倒などである。鉄道会社の相互乗り入れが鉄道の運行停止の拡大を招き、多くの帰宅困難者が発生した。また、6万6千基ものエレベーターが緊急停止し、339人が閉じ込められた。この地震での経済損失は、SMBC日興証券によると1800億円に及ぶという。また、地震保険支払額は、8月9日現在で718億円にも及んだ。これは、東日本大震災、熊本地震、阪神・淡路大震災に次いで4番目の支払金額である。改めて大都市の脆弱さが分かった。

 6月28日~7月8日に台風7号と梅雨前線の停滞によって甚大な豪雨災害が発生した。11府県で特別警報が発せられ、各地で観測史上最大の降雨量となり、12府県で死者221人、行方不明者9名を出した(9月5日、内閣府)。西日本の広域が同時被災したため、被害状況の把握や応援体制の構築に手間取った。被害は多様で、斜面崩壊、谷筋の土石流、ため池の決壊、天然ダムの決壊、砂防ダムの決壊、流木による河道閉塞、河川合流によるバックウォーター現象、ダムの緊急放流による浸水など、土砂災害や浸水被害が発生した。広範囲に鉄道・道路が止まり、企業活動も停滞した。また、大量の災害廃棄物の処理も課題となった。

 9月4日に台風21号が非常に強い勢力のまま徳島に上陸、近畿地方を縦断して北上し、大阪府を中心に12人の死者(消防庁9月10日)が出た。大阪の高潮最高潮位は観測史上最大の329cmとなり、関西空港が最大50㎝浸水し、第一ターミナルが停電した。関空では最大瞬間風速58.1m/sを記録し、タンカーが漂流して連絡橋に衝突した。関空は孤立し、約8千人が閉じ込められた。車が飛び、屋根や看板など様々な物が高速で飛来しガラスが割れた。関西電力管内では8府県で約160万8000戸が停電。中部電力管内では5県で約69万5320戸が停電し、都市機能がマヒした。インバウンドの外国人観光客は情報収集の困難さから混乱した。

 9月6日にM6.7の北海道胆振東部地震が深さ37kmで発生し、厚真町で震度7を記録した。強い揺れ、脆い火山質の地盤、台風21号による前日の雨により厚真町の山々が大規模崩壊し、札幌市清田区では液状化が発生し、41人が犠牲になった(9月13日、消防庁)。震源近くにあった苫東厚真火力発電所が停止し、ブラックアウトにより全道が停電した。新千歳空港や北海道新幹線など交通網が止まり、北海道が孤立し、農産物、工業製品の物流が止まった。観光客も激減し、北海道が疲弊しつつある。冬季五輪の招致も順延となった。

10個のキーワード

 これらの一連の災害の教訓を10個のキーワードで表すと、①集中と効率、②隘路と孤立、③社会基盤、④移動と物流、⑤華奢な都市、⑥土地利用、⑦広域と複合、⑧情報と資源、⑨保険、⑩付属物、が挙げられる。個々について考えてみる。

「集中」による「効率」が招いた被害の深刻化

 関西では、国際空港機能が関空に集中し、空港閉鎖でインバウンドと航空貨物が破たんした。人と家屋が集中する大阪は、M6.1、震度6弱程度の揺れで、かつてない経済被害、地震保険支払金額となった。北海道電力は電力供給の半分強を、新鋭で発電コストが安い石炭火力の苫東厚真火力発電所に集中していた。震源近くにあったため、ボイラーの破損とタービンから出火で発電を停止、他の発電所に波及してブラックアウトに至った。大規模空港、大都市、大規模発電所など、集中は効率的だが、停止するとその影響は甚大で脆い。適度な分散が必要だ。首都直下地震対策の根幹は首都一極集中の是正にある。

「隘路」の弱さが「孤立」を招く

 規模は違うが、広島県呉市、関西空港、北海道が孤立した。山に囲われた呉市は、土砂崩れで鉄道・道路が途絶し陸の孤島となった。空港連絡橋だけで陸と結ばれた関空は連絡橋損壊で孤立した。北海道は、鉄道は青函トンネル、電力は北本連系線だけで本州と結ばれている。新千歳空港閉鎖と鉄道運行停止で孤立し、交流変換に電力が必要な直流の北本連系線は停電で機能しなかった。孤立を招く隘路(ボトルネック)は、その強化と迂回路確保による冗長さが必要だ。南海トラフ地震で、港湾・空港が広域で機能停止すれば、日本が孤立する。

ライフライン・インフラの「社会基盤」の強靭化

 西日本、大阪、北海道が大規模停電し、西日本豪雨では水道復旧に、大阪府北部の地震では都市ガス復旧に時間を要した。山間部では、台風21号による停電がいまだ続いている。水は人間の生存に、電気・ガスは社会の維持に欠かせない。しかし、水道事業は赤字で、電力・ガスは自由化による経費削減で、安全投資が十分でない。省エネで石油業界も元気がない。電気、石油・ガス、水は相互依存の関係にある。これを支える道路・通信も同様だ。一つが滞ると他も破たんし、社会全体がブラックアウトする。社会を支えるライフラインは、相応のコストを負担してでも絶対の安全を目指すべきである。かつて、5千人の死者を出した伊勢湾台風を始め、戦後の台風の被害は甚大だった。これに対し、近年は土木インフラのおかげで被害が減少した。しかし、インフラや行政に頼る人間の力が落ちている。

社会の血管である「移動」手段と「物流」確保

 一連の災害で、道路・鉄道の陸路が途絶え、人と物の移動ができなくなり、被害が波及した。また、空港・港湾が止まり、海外との人・物の流れが滞った。ジャスト・イン・タイム生産システムやネット通販は、トラック輸送に依存している。東西の鉄道貨物の要である山陽線が、西日本豪雨で不通になった影響は大きい。大都市では、

・・・ログインして読む
(残り:約2422文字/本文:約5004文字)