大矢雅弘(おおや・まさひろ) ライター
朝日新聞社で社会部記者、那覇支局長、編集委員などを経て、論説委員として沖縄問題や水俣病問題、川辺川ダム、原爆などを担当。天草支局長を最後に2020年8月に退職。著書に『地球環境最前線』(共著)、『復帰世20年』(共著、のちに朝日文庫の『沖縄報告』に収録)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
熊本・天草で進む「創業による雇用」、期待される全国への広がり
アマビズは熊本県天草市の本渡中央銀天街の空き店舗に開設された。メンバーは内山隆センター長(52)ら9人。今年5月、開設3周年の記者会見をした内山センター長によると、相談件数は当初目標の「年間600」を大きく超え、3年間で4445件にのぼった。「3年間の新規創業」は100件の目標に対し96件、「創業による雇用」は300人に対し294人で、目標をほぼ達成した。
相談件数は、中小企業庁がエフビズをモデルに設置した無料の経営相談所「熊本県よろず支援拠点」と人口比で比較をすると5.2倍、新規創業件数は、日本政策金融公庫がかかわる熊本県内分の件数と人口比で比較すると1.5倍に相当する。本渡商工会議所の会員数も20年間、減少の一途をたどっていたが、2016年度に下げ止まり、2年連続増加に転じている。今年2月の調査では、4回以上相談を行った事業者に8割以上が売り上げ増など業績向上の成果があった、と回答している。
アマビズ以降、九州では16年に長崎県上五島町、17年には宮崎県日向市、福岡県直方市、長崎県大村市、同県壱岐市と開設が続いた。起業家支援に奔走してきた小出宗昭さんは九州各地にビズが誕生した背景について、「大きなきっかけをつくったのは、天草のチャレンジ」と言い切る。
天草市の人口は約8万人。毎年1400人ほど人口が減少しており、「消滅可能性都市」の一つにも入っている。商店街にはシャッターを下ろした建物が連なり、高齢化率は37%。疲弊が進んでいる。
一方で、モデルとするエフビズがある富士市は人口25万人で首都圏に非常に近い工業都市。オカビズも名古屋市に近く人口38万人の大都市だった。小出さんは「両市はともに太平洋ベルト地帯にあって、なおかつ大市場が近くにあり、しかも大企業がいっぱいある。そんな恵まれた地域だからできるのだろう。1次産業を中心とした市や町については、どうなんだろうという思いが自治体側にはあったと思う」。
だが、そんな懸念を笑い飛ばすように、アマビズが実績を積み重ねていった。「天草でこんなことが起きるというのは想定外でした」という小出さんは、「霞が関」かいわいでアマビズが活況を呈する状況を語るたび、どよめきのような驚きの声が上がったという。小出さんの話を聴いた人たちの間では「アマビズショック」という言葉が行き交うまでになった。「(人口規模が小さな市や町が)天草でできるんだったら、うちでもできるだろうと考えて、一斉に動き出したという風に我々は認識しています」と小出さん。
全国各地に開設されたビズのセンター長はアマビズ以降、すべて全国公募で選ばれており、小出さん自らが面接を行い、選抜している。アマビズの場合、101人の応募があり、世界的コンサルティング会社のアクセンチュア出身の内山さんらが選ばれた。