瀬木比呂志(せぎ・ひろし) 明治大法科大学院教授
1954年名古屋市生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験に合格。裁判官として東京地裁、最高裁などに勤務、アメリカ留学。並行して研究、執筆や学会報告を行う。2012年から現職。専攻は民事訴訟法。著書に『絶望の裁判所』『リベラルアーツの学び方』『民事訴訟の本質と諸相』など多数。15年、著書『ニッポンの裁判』で第2回城山三郎賞を受賞。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
学者に転身した理由、影響を受けた思想、アメリカに抱いた幻想の崩壊を綴る
『裁判官・学者の哲学と意見』(現代書館)を刊行した(2018年11月27日)。
これは、関根牧彦の筆名時代以来15年ぶりで、みずからについて、また、僕の人生、考え方、広い意味での哲学や思想について語った書物である。
といっても、いわゆる自伝ではなく、自分がこれまでの人生で体験してきたさまざまな事柄を8つの視点からまとめて論じ、それらを素材としながら読者に問いかける本、読者がさまざまな事柄を考えてゆく上での一つのきっかけ、ヒントとしていただけるための本という意味合いが大きい。
また、僕自身にとっては、専門書を除いた僕の一般読者向けの書物の総論というべき性格の、その意味で重要な本の一つになる。
各章の表題は以下のとおりである(章番号はわかりやすいように○で囲んで示す)。
①裁判官から学者へ
②自由主義者、経験論者、運命論者
③芸術との対話
④書くこととその意味
⑤痛みがあって、やがて傷をみつける
⑥鶴見俊輔さんの思想とその思い出
⑦傾きゆくアメリカから日本をみつめて
⑧変わりゆく世界の中で
具体的な内容は、両親との少年時代以来の軋轢、確執(⑤)、裁判官から学者に転身した動機と経緯(①)、自由主義者、プラグマティズムに影響を受けた経験論者、宇宙論的運命論者としてのみずからの思想、関連して、自由主義者としての立場からの、左派の現状に対する批判(②)、哲学者鶴見俊輔さんから書くことを勧められた経緯と彼についての鮮烈な思い出および僕の目からみての彼の哲学の本質(⑥)、2度目、2017年度の在外研究で目撃したアメリカ社会とそのモラルのはなはだしい凋落の現実とその分析(⑦)、書くこととその意味についての自分なりの考察と『絶望の裁判所』(講談社現代新書)等のこれまでの書物にまつわるさまざまなエピソード(④)、メディア環境の激変とその中での個人の位置に関する考察(⑧)、芸術とみずからの種々のかかわり(③)といった事柄だ。