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警戒宣言から臨時情報へ

 昨年8月に、国は、南海トラフ沿いで発生が懸念されるプレート境界地震について、確度の高い予測は困難として、直前予知を断念し、事実上、警戒宣言を凍結した。これを受け、気象庁は、昨年11月から、異常な現象を捉えた場合には、南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会を開催し、南海トラフ地震に関連する情報(臨時)を発表することになった。しかし、現在の地震学の実力では、事態の推移を観測することはできても、いつ地震が発生するかを 予測することは困難だとされる。 

拡大南海トラフ地震の臨時情報発表を想定した国土交通省の訓練=2018年5月7日、東京都千代田区
 こういった状況の中、この情報をどのように生かしていくべきかが問われている。今年4月には、中央防災会議に「南海トラフ沿いの異常な現象への防災対応検討ワーキンググループ」が設置され、臨時情報が発せられた場合の対応の在り方について、基本的な方向性をまとめるべく検討が行われている。南海トラフ地震の震源域の半分で地震が起きた場合、震源域の一部で地震が起きた場合、ゆっくり滑りが生じた場合などを例にして、個人や企業の対応の仕方について議論が行われており、12月をめどに検討結果がまとめられる予定である。

国難とも言える南海トラフ地震

 今後30年間の地震発生確率が70~80%と言われる南海トラフ地震は、最悪、死者32万3千人、全壊・焼失家屋約240万棟の被害が予想されており、土木学会によれば、20年間の経済損失額は1410兆円に及ぶとされている。確実に起きると言われる地震で、このような被害を出せば国は衰退する。あらゆる国民が被害を減らす努力をするしかない。耐震化や早期避難など的確な対策を行えば、死者は5分の1になると試算されている。しかし、残りの5分の1を救うためには、さらなる方策が必要であり、臨時情報の活用が望まれる。

 確度の高い地震の発生予測は困難だと言われる一方、観測網の整備により、様々な異常現象が観測される。予測が困難と言うことは、多くの専門家が色々な見解を発表することにつながる。マスメディアやSNSが、憶測情報を付加して煽れば、社会が混乱する恐れもある。信頼できる機関が、おのおのの見解について冷静な解説を行う仕組みが必要である。国内に留まらず、海外に対しても正確なメッセージを伝えることが社会活動維持に欠かせない。

避難の猶予時間が不足する地域での避難対応

 南海トラフ地震は、震源域が陸域に近いため、津波避難の時間的猶予がない地域が存在する。また、北海道胆振東部地震や熊本地震などでの土砂崩壊地域も避難は難しい。都道府県知事は、津波防災地域づくりに関する法律(津波防災地域づくり法)や土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(土砂災害防止法)に基づいて、津波災害警戒地域や土砂災害警戒地域を指定することができる。危険地域を早期に指定すると共に、臨時情報発表時の避難の在り方について地域ぐるみで議論を進める必要がある。

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筆者

福和伸夫

福和伸夫(ふくわ・のぶお) 名古屋大学減災連携研究センター長・教授

1957年に名古屋に生まれ、81年に名古屋大学大学院を修了した後、10年間、民間建設会社にて耐震研究に従事、その後、名古屋大学に異動し、工学部助教授、同先端技術共同研究センター教授、環境学研究科教授を経て、2012年より現職。建築耐震工学や地震工学に関する教育・研究の傍ら、減災活動を実践している。とくに、南海トラフ地震などの巨大災害の軽減のため、地域の産・官・学・民がホンキになり、その総力を結集することで災害を克服するよう、減災連携研究センターの設立、減災館の建設、あいち・なごや強靭化共創センターの創設などに力を注いでいる。

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