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少数意見と真実発掘のドキュメンタリー[11]

逆風の光市母子殺害事件弁護団を追った東海テレビ、足利事件冤罪を証明した日本テレビ

川本裕司 朝日新聞社会部記者

 東海テレビ報道局専門局次長だった阿武野勝彦(59)=現・報道局専門局長=は2008年4月、社長の浅野碩也(72)=現・相談役=と社長室で向き合っていた。山口県光市母子殺害事件の弁護団に密着したドキュメンタリー「光と影」の放送が1カ月半後に迫っていたとき、プロデューサーの阿武野は社長から説明を求められたのだった。

 事件当時18歳だった被告(37)=現・死刑囚=が殺意の否定に転じ、「死刑廃止論を主張するため裁判を利用しているのでは」と弁護団は世間から批判の嵐にさらされていた。弁護士橋下徹(49)が07年5月、弁護団の懲戒請求を読売テレビ「たかじんのそこまで言って委員会」で呼びかけ、〝鬼畜弁護団〟という非難が飛び交った。ネットでの書き込みも加速していった。
「お前はキチガイだ。絶対放送させない」と、阿武野は社長から言われた。

 「私はやめてもかまいません。ただ、番組を止めたあなたが、取材に協力してきた弁護団が信義則違反で訴訟を起こしたときの対象になりますよ。相手は腕っこきの弁護士たちです」と答えた。

 すると、「どれくらい進んでいるんだ」と聞いてきた。落としどころを求めているんだな、と放送中止は避けられる感触を得た。「取材は8割がた済んでいます」と言うと、話は収まった。

 「光と影」は、報道部ディレクターだった斉藤潤一(50)=現・報道局部長=が「光市母子殺害事件弁護団の会議を撮影できます」と企画を持ち込んできた。名張毒ぶどう酒事件の裁判取材で知り合った弁護士が弁護団のメンバーになっていたことが手がかりとなった。ただ、条件として、会議すべてを撮影すること、放送は広島高裁での差し戻し控訴審の判決(4月22日)後にすることで合意した。

 「光と影」のテーマは、「弁護士の職業倫理とは何か」だった。阿武野らは、被害者感情を理由にした弁護団へのバッシングとは異なる視点から、重層的に事件を伝えたい、と考えていた。

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筆者

川本裕司

川本裕司(かわもと・ひろし) 朝日新聞社会部記者

朝日新聞社会部員。1959年生まれ。81年入社。学芸部、社会部などを経て、2006年から放送、通信、新聞などメディアを担当する編集委員などを経て、19年5月から大阪社会部。著書に『変容するNHK』『テレビが映し出した平成という時代』『ニューメディア「誤算」の構造』。

 

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