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「ジャパンブルー」のタクシーが街の風景を変える

武田徹 評論家

「JPN TAXI」(ジャパンタクシー)拡大都内ですっかり定着した「JPN TAXI」(ジャパンタクシー/トヨタ自動車製)

 東京の街頭では最近、深い藍色に塗られたタクシー車両をよく見かけるようになった。エンジンを鼻先に収めたボンネットの後ろに、背の高い、大きめの客室を背負って走る。全長はセダンよりも短く、小柄な印象ゆえに、どこかリスのような小動物が路地をくまなく駆け回る姿を連想させる。それが「JPN TAXI」(ジャパンタクシー)だ。

 東京オリンピック、パラリンピックのワールドワイドパートナーであるトヨタ自動車製のタクシー車両として「TOKYO2020」のロゴのラッピングを後席ドアに付けているクルマも多く、来るべき五輪気分を盛り上げるものとして報道されることも多い。

 そんな「JPN TAXI」の開発を担当したトヨタ自動車製品企画チーフエンジニア粥川宏さんに話を聞いた。

ロンドンタクシーに学ぶものがあった

――どんな経緯で開発が始まったのですか。

粥川 トヨタは日本人の手で初めて乗用車を作った企業ですが、その頃は自家用車需要がほとんどない時期ですから法人に主に買ってもらっていました。そうした法人仕様車のなかにはタクシー用の自動車も含まれ、私たちが代々のタクシー用の車両を作り、事業者に使っていただいて意見をフィードバックして改良するという、持ちつ持たれつの関係でやってきました。

 そうしたタクシー専用車としてはクラウンコンフォートという車種を1995年に提供して以来、時間が経ち、ずいぶん前から見直しが必要という声が出ていたのです。法人タクシー事業者の経費内訳は7割が人件費、1割弱が燃料費、残りがそれ以外と言われています。メーカーとして貢献できるのが燃費ですが、コンフォートはLPG仕様。止まったり走ったりを繰り返し、低速で走る時間が長いタクシーこそハイブリッドの良さが活かせるのにご用意できていなかった。

――プリウスのタクシーにはずいぶん乗せてもらいましたが。

粥川 あれはタクシー事業者さんが一般向けのプリウスを買って使ってくれていたのです。トヨタとしてはやはり専用車を作って提供したい。というのも法人タクシーの車両は東京では40〜50万キロ走る。退役した後も中古車として売買されて地方都市や海外でまた走る。コンフォートはそうした使われ方に耐えるように作っていました。香港もタクシーは全部コンフォートなのですが、200万キロ走っているクルマもあります。

――あの半島の先っちょと島だけのちっこい版図のなかで地球50周分も走るんですか! そこまで走るクルマを作るには衿をただして臨む必要がありそうですね。「JPN TAXI」のお披露目はたしか2013年のモーターショーに出展されたコンセプトカーでした。

粥川 まだまだ市販の目処が立っていない時期で、普通に考えたら早過ぎるのですが理由がありました。2012年から開発を始め、世界のタクシー事情を研究し、日本中のタクシーの利用法を再検討した結論として次世代のタクシー専用車はワゴンタイプにしたいと決まっていたのです。

――ワゴンタイプといえばロンドンタクシーが有名です。空港から狭い路地の隅々までそれこそどこでも走っていて、乗り心地は多少ドタバタしているけれど、通りの名前と番地を言えば、確実に目的地の正面にすっと着けてくれる。

粥川 タクシー専用モデルは世界広しといえどもロンドンタクシーとトヨタのコンフォートしかなく、似た面もあるのですが、あちらは誰にでも乗りやすいタクシーを目指すユニバーサルデザインの発想を昔から盛り込んでいました。そこに学ぶべきものがあると考え、私が開発に携わったシエンタという乗用車をベースにタクシー専用車を開発することを決めました。シエンタも床を低くフラットにして、乗り降りしやすく、乗り込んだ後で車内での移動を楽にしようとしていたのでタクシーのベース車両にふさわしいと考えたのです。ただコンフォートのようなセダン型から印象が大きく変わりますので、開発の早い段階でお披露目して、高齢化が進むなかでタクシーも変わってゆく必要があることを事業者のみなさんだけではなく、一般のユーザーの方々にも理解してもらおうとしました。

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筆者

武田徹

武田徹(たけだ・とおる) 評論家

評論家。1958年生まれ。国際基督教大大学院比較文化専攻博士課程修了。ジャーナリストとして活動し、東大先端科学技術研究センター特任教授、恵泉女学園大人文学部教授を経て、17年4月から専修大文学部人文ジャーナリズム学科教授。専門はメディア社会論、共同体論、産業社会論。著書に『偽満州国論』、『流行人類学クロニクル』(サントリー学芸賞)、『「核」論――鉄腕アトムと原発事故のあいだ』『戦争報道』、『NHK問題』など。

 

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