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視聴率を狙わないWOWOWドラマの力[12]

スポンサーの制約なく選べるテーマ、骨太の社会派連ドラ「空飛ぶタイヤ」「しんがり」

川本裕司 朝日新聞記者

視聴率「買収」に走った日テレプロデューサー

 2003年10月24日、日本テレビのプロデューサーによる「視聴率買収」問題が明らかになった。興信所を使ってビデオリサーチの視聴率調査対象世帯を割り出し、知り合いの制作会社社長が対象世帯を訪問してプロデューサーが制作した番組を見るよう依頼し、謝礼を支払っていたという前代未聞の不祥事だった。

 プロデューサーは番組制作費を複数の制作会社などに水増し請求させたうえ、日本テレビが支払った水増し分をキックバックさせ、興信所の費用や調査世帯への謝礼に充てていた。視聴率操作にあたったのは00年3月から03年7月まで。水増し請求は14回、計1007万6585円にわたり、うち875万2584円が工作費用に使われた。交渉役の元制作会社社長とその元妻は十数世帯に視聴を依頼、承諾した6世帯に商品券1万円ずつを渡していた。この交渉がビデオリサーチに発覚したあとは、プロデューサー本人が電話で対象世帯に視聴を依頼していた。ただ実際の対象世帯は3世帯で、視聴率に影響があったとしても最大0.5%だった。

 年末年始などの特番を担当するだけでレギュラー番組をもたないプロデューサーは危機感から視聴率の買収を実行した。買収の実態は外部委員による「視聴率操作」調査委員会が11月18日に公表した報告書で明らかになった。視聴率を重視する社長の萩原敏雄(82)=11月18日付で副社長に降格=のもと、背信行為に手を染めたプロデューサーは懲戒解雇となった。

「あるある大事典Ⅱ」で発覚した捏造、データ操作 

 視聴率買収問題が発覚してから3年3カ月後の07年1月20日、関西テレビは制作した生活情報番組「発掘!あるある大事典Ⅱ」で、納豆のダイエット効果を紹介した1月7日放送分にデータ捏造や発言していない米国大学教授のコメント放送など7カ所に問題があった、と発表した。社外有識者による調査委員会が過去520回の放送分までさかのぼり精査した結果、納豆ダイエットを含め計16件で問題があることが3月23日に公表した報告書で明らかにした。

 「寒天で本当にヤセるのか!?」などで番組構成に合わせて実験したデータを操作した改ざんが4件、日本語のボイスオーバー(吹き替え)による捏造が4件、残り8件は実験方法が不適切だったり、研究者に確認を取らなかったりするなど表現が不適切だった。

 番組は関西テレビから企画した日本テレワークに制作委託され、さらにアジトなど9社の孫請けに再委託されていた。アジトは納豆ダイエットなどを担当し、16件中9件の問題に関わっていた。関西テレビにプロデューサーはいるものの、実態は制作会社に丸投げされチェックがまったく働いていない実情が暴露された。調査委員会は問題の原因と背景として、「視聴率本位の制作態度」「完全パッケージ方式による制作委託の問題点」「再委託契約におけるピラミッド型の制作体制の問題」など11項目を指摘した。

 捏造発覚で日本テレワーク社長を辞任した古矢直義(73)は、アジトのディレクターについて「報告を聞いている限り、とにかく当たればいい、視聴率さえ取れればいいという考えの持ち主のようです」(「日経ビジネス」07年5月7日号)と述べている。関西テレビ社長だった千草宗一郎(74)は4月3日付で取締役に降格した。

制作費をかけ濃密な内容で有料放送の加入者獲得

 民放地上波の視聴率至上主義の歪みが相次ぐなか、有料BS放送の民放局WOWOWは、08年から「ドラマW」で日曜夜に連続ドラマを始めた。視聴率を求めるのではなく、加入視聴者の中核である40~60代をメインターゲットとした作品を並べた。

 03年にスタートした「ドラマW」では単発のオリジナル作品を放送してきた。化粧品業界の内幕を描いた03年の「コスメティック」(林真理子原作)は、化粧品会社が有力スポンサーである地上波民放では実現しないドラマといわれた。著名なフリー演出家や映画監督を起用し独自性への評価は高かったものの、加入者増加にはあまりつながらなかった。

 本腰を入れるなら連続ドラマとして、08年4月から始めた「連続ドラマW」第1弾が井上由美子脚本の「パンドラ」(出演・三上博史、柳葉敏郎)だった。内科医が発見したがんの特効薬をめぐってうごめく製薬会社や医学界の思惑や欲望を描いたオリジナル作品。8回の放送でのめまぐるしい展開が視聴者を引きつけた。

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