「世界の車窓から」「出没!アド街ック天国」「二代目 和風総本家」の手法とこだわり
2018年11月22日
番組を企画した制作会社テレコム・ジャパン(93年解散)のプロデューサーだった岡部憲治(69)は、広告会社電通から富士通提供のミニ番組が持ち込まれたとき、連続性があって毎日楽しめるものをと考えた。調べると世界の鉄道網は120万キロある。ネタは尽きないはずと、列車に乗りながら撮影し旅を続ける番組を考案した。テレコム・ジャパンのテレビ番組部門として92年に独立したテレコムスタッフの代表取締役になってからも、プロデューサーを続けている。
取材陣は日本からのディレクター、カメラマン、ビデオエンジニアの3人一組が基本。これに現地のコーディネーターやドライバーが加わる。車窓からの景色と列車内の模様を撮るだけではない。列車が走る映像は、自動車で戻って風景の良い場所を探しながら撮る。駅で下車し、紹介する街を撮影することも少なくない。アフリカや南米などで週に1本という路線のときは、ドライバーがカメラマンと先回りし、並行しながら列車を撮ることもある。海外ロケ1カ月で3カ月分の映像を収録、帰国するとなるべく早く放送する。
車窓からの風景が中心だが、列車に乗り合わせた人々との交流や鉄道のもとに広がる街の姿から、訪れた国の素顔が伝わってくる。番組を始めてみて、鉄道はその国の政治、経済、文化を反映する存在であることを実感させられた。行くたびに駅の様子やファッションが変わりもする。撮影する国はディレクターの希望ではなく、岡部が決める。「いい季節にいい風景を撮る」のが基本だ。冬には寒く暗くなりがちな北半球ではなく、南半球を選ぶことが多い。
2015年時点で鉄道があるのは140カ国という。10年以上かけて世界を一周、18年10月までに走破したのは106カ国になった。総取材距離は75万キロを超えた。当初は世界一周を早く達成したいと番組のテンポが速かったが、3、4年で少し落ち着いた。
最も多く訪れたのは17回のフランス。続くのはスイス(15回)、イタリア(14回)と風光明媚で観光地の多い欧州の国々となっている。2010年にはサウジアラビアに初めて入った。砂漠ばかりの光景だったが、これも味わいのひとつかもしれない。まだ撮影が実現していないのは紛争や政治的安定性が障害となっているイラクやアルジェリア、コロンビアなど。アフガニスタンやイエメンには旅客鉄道がない。グアテマラではすべて廃線になったという。
撮影が難しくなっているのは米国だ。01年にあった9.11同時多発テロ以降、セキュリティーを理由に列車内での取材許可がなかなか下りなくなった。08年に登場したアラスカを除けば、06年の取材が最後になっている。軍事上の問題から、ロシアでは橋の撮影は禁止された。エジプトのある地域では、安全面から警察同行の取材となった。また、編成上できたミニ番組は日本独特といわれ、チュニジアに取材申請したときはなかなか理解されなかったこともある。
訪れても鉄道のメンテナンスが悪く脱輪するため国中の列車がストップしていたガーナのような例がある一方で、世界的な潮流は高速化と新幹線の増加だ。岡部は「スピード追求や豪華列車はつまらない。車窓を開けてこそ、きれいな映像が撮れる。人間との出会いが番組の魅力なのです」と言う。
04年をピークに海外留学をする学生が減る傾向にあり、「内向き志向」と指摘する声がある。しかし、「世界の車窓から」を見て現地を訪れたり、実際にロケ先で出くわしたりするという変わらない視聴者の反響を聞くと、岡部は海外への関心が衰えているとは思わない。シベリア鉄道を取り上げたときは、抑留されていた父の思い出を綴った手紙が寄せられた。
張りのある声でナレーションを担当する俳優の石丸謙二郎(65)は番組当初から変わっていない。
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