瀬木比呂志(せぎ・ひろし) 明治大法科大学院教授
1954年名古屋市生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験に合格。裁判官として東京地裁、最高裁などに勤務、アメリカ留学。並行して研究、執筆や学会報告を行う。2012年から現職。専攻は民事訴訟法。著書に『絶望の裁判所』『リベラルアーツの学び方』『民事訴訟の本質と諸相』など多数。15年、著書『ニッポンの裁判』で第2回城山三郎賞を受賞。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
分かれた原子力規制委員会の「火山影響評価ガイド」に対する裁判官の判断
6 ここで、破局的噴火の問題についてのこれまでの判断を整理しておく。以下のとおり、9つの判断のうち5つ(②、③、④、⑤、⑦)もが火山ガイドの内容を不合理としているが、そのうち⑤の広島高裁認容決定を除くすべてが仮処分を認めていない。火山ガイドが合理的であるとしたのは①、⑥、⑧の3つだが、その判断のあり方には火山学者からも多数の批判が出ている。⑨は行政訴訟ではないことを理由にこの点について判断していない。
なお、以上の判例のうち社会通念論を用いたもの、また、先の「基本的な考え方」が社会通念上無視できるとする破局的噴火の規模の定義は一律ではなくまちまちである。このことだけからみても、「社会通念」という概念が主観的、恣意的、不安定なものであって、科学的な厳密な危険性が問題になっているような事案において用いることが不適切なものであることは明らかだろう。
以下、各判断について要点を整理する。
① 2015年4月22日川内原発・鹿児島地裁仮処分決定(却下)――火山ガイドの合理性を認めた。
火山に関する初めての裁判例。設計対応不可能な火山事象である火砕流が敷地に到達するような破局的噴火(マグマ噴出物量100キロ立方メートル以上の噴火)の発生可能性、事前の予測可能性(モニタリングで予測し、危険が高まれば燃料棒を運び出す)が争点とされた。
裁判所は、噴火予測に関する知見が確立していないことを認定しつつも、モニタリングは正確な予知を求めるものではないとして、「少しでも破局的噴火の兆候らしきものがあったら空振り覚悟で原発を停止し、燃料棒の搬出を行う」という事業者の主張を認め、火山ガイドもその基準適合性判断も不合理ではないと結論付けた。
この決定については火山学者が猛反発し(実際には、モニタリングによって破局的噴火の兆候を相当前の時点で察知することはきわめて困難)、火山学者緊急アンケートなどが行われ、議論が一気に深まった。
② 2016年4月6日川内原発・福岡高裁宮崎支部仮処分決定(1の即時抗告審・棄却)――火山ガイドは不合理としつつ破局的噴火のリスクは社会通念上容認されるとした。
噴火の時期及び規模を相当前の時点(稼働を停止して燃料を冷却し、燃料棒を運び出せるだけの余裕のある時点)で的確に予測できることを前提としている点で火山ガイドは不合理としながら、破局的噴火については一般建築においても考慮されていないことなどを挙げ、その破局的噴火の発生可能性が具体的根拠をもって示されない限り、そのリスクは社会通念上容認すべきとした。危険の可能性は社会通念という言葉で無視し、
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