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ゴーン氏の行為は犯罪的、検察は正義感を重視か

「多くの社員を切り捨てた社長が年収何十億円」は許されるか 自白偏重のフランス司法

河合幹雄 桐蔭横浜大学法学部教授(法社会学)

 多くの社員を切り捨てた社長が年収何十億円という行為は、法律がどうであるかにかかわらず許されないという正義感を無視できますか。カルロス・ゴーン氏自身が、この正義感を無視できないからごまかしたのではありませんか。

拡大東京地検特捜部が捜索に入った日産本社=2018年11月19日、横浜市西区高島1丁目
 日産自動車のゴーン氏が、有価証券報告書に報酬を過少申告したとして金融商品取引法違反で、2018年11月19日に特捜に逮捕され、12月10日起訴された。日産からの年間報酬額を約20億円とすべきところを10億円弱と毎年偽り、2010年から2014年の5年間で累積数十億円の過少申告したという容疑である。

 ところが一方、ゴーン氏は、20年前に危機にあった日産を救った人物として高い評価もある。総体としてゴーン氏のことをどう受け止めたらよいのか論じたい。また、グローバル化が進む世界における刑事司法のあり方という観点についても分析したい。

 ゴーン氏の報酬といえば、ルノー社の報酬と三菱自動車の報酬の合計が年間10億円を超えている。2009年の時効で不起訴の10億円の過少申告、豪邸の提供、親族優遇などは、事実関係が十分明らかではないのでひとまず置くとして、年間30億円どころでない所得収入があることは間違いない。

 他方で、日産を救ったというのは、法人を救ったのであって、それによって日産社員を救ったわけではない。それどころか、厳しいリストラによって、関連会社も含めれば、職を失い、収入が減った人々が多数でている。これについては、ゴーン氏1人の問題ではなく、派遣労働者や外国人労働者を、恐るべき低賃金にして企業トップが巨額の報酬を得ることがまかりとおっている。

 社員を豊かにし自分も高収入ならともかく、ゴーン氏の行為が道徳的に悪であることは明白であるように思う。もちろん、皆が同じ給料なら良い社会とはいかないところは当然であり、その点については後ほど述べたい。

 話を戻して、この悪行は、経済学者ならアダム・スミスを想起させられ、道徳なしの経済活動の問題ということになるであろう。法学者からすれば、実質判断としてゴーン氏の行為は犯罪的ということであり、あとはどの形式に当てはめて犯罪として追及するかである。


筆者

河合幹雄

河合幹雄(かわい・みきお) 桐蔭横浜大学法学部教授(法社会学)

1960年、奈良県生まれ。京都大大学院法学研究科で法社会学専攻、博士後期課程認定修了。京都大学法学部助手をへて桐蔭横浜大学へ。法務省矯正局における「矯正処遇に関する政策研究会」委員、警察大学校嘱託教官(特別捜査幹部研修教官)。著書に『安全神話崩壊のパラドックス 治安の法社会学』『日本の殺人』『終身刑の死角』。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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