2018年11月21日
この数年、製造業のトップ企業の品質データ不正が続いている。建設関係では、2015年に東洋ゴムによる免震用ゴムの試験データの偽装と、旭化成建材の杭打ち工事データの改ざん、2016年に東亜建設工業の空港工事での地盤改良データの改ざん、本年にはKYBなどによるオイルダンパーの検査データの改ざんが明らかになった。このようなデータ不正は、建設業界に留まらない。
自動車業界では、三菱自動車やスズキ、日産自動車、スバルの燃費データの改ざんや完成検査の不正があった。海外では、排出ガス規制の不正をしたドイツのフォルクス・ワーゲン社の事例がある。部品や素材を供給するメーカーでも、神戸製鋼所による航空機、自動車、鉄道などに使用するアルミ・銅、鉄粉などの性能データ改ざん、日立化成による非常用バックアップ電源などに使う鉛蓄電池のデータ改ざん、三菱マテリアルグループによる自動車や航空機、スマホ、土木建設に使う電線・ケーブル類、アルミ製品、金属加工品などの不正品出荷など、不祥事が相次いでいる。
いずれも、建設、自動車、航空機という人命に関わるものの不正であり、社会の安全の根幹を揺るがすものである。何故、品質を売りにしていた日本のトップ企業がこのようなデータ不正を行ったのだろうか。最近発生したオイルダンパーの問題を通して考えてみる。
一般に、免震では、建物の下に免震装置を設置し、建物を長周期化して地震動との共振を避け、万一の共振に備えて減衰を付与する。長周期化のために使うのが積層ゴム、減衰付与のために使うのがダンパーである。積層ゴムは、薄いゴムの間に鉄板を挟んで接着することで、横からの力に対しては軟らかく、上下の力には硬い装置を実現している。これにより、重い建物を支えつつ、地震の横ゆれを建物に伝えないようにしている。ただし、地盤の揺れ方によっては共振して建物が大きく揺れるため、揺れが早く減衰するようにダンパーを併用する。ダンパーには様々な種類があり、鉛ダンパー、鋼材ダンパー、摩擦ダンパー、オイルダンパーなどがある。その他にも、高減衰積層ゴムや鉛プラグ入り積層ゴムなども使われる。通常はこれらを組み合わせて使う。オイルダンパーは水鉄砲のようなもので、水の代わりにオイルを使う。自動車のショックアブソーバーを大型にしたものである。
制振は、建物そのものの揺れを早く減衰させるために、建物に付加的に減衰の仕組みを入れたもので、多くの場合、減衰が小さい鉄骨の高層ビルに使われる。中低層のビルは地盤に比べて堅いので、建物の振動エネルギーが地盤に逃げやすいが、柔らかい鉄骨造の高層ビルは振動エネルギーが留まりやすく、共振すると揺れが大きく増幅する。このため、最近の高層ビルでは長周期地震動対策に制振を使うことが多い。制振には、機械の制御のように力を加えて制御するアクティブ制振と、建物内に付加的な減衰装置を入れたパッシブ制振があり、後者が一般的である。
制振には風対策用と地震対策用があり、かつては風用が多く、ビルの上に建物と同じ周期で揺れる振り子を乗せたTMD(Tuned Mass Damper:質量同調ダンパー)がよく用いられる。地震用の制振ダンパーには、鋼材ダンパー、摩擦ダンパー、粘性体や粘弾性体を使ったダンパー、オイルダンパーなどがある。オイルダンパーは微小な揺れから大きな揺れまで効くが一般に高価である。免震用に比べ制振用のダンパーはストロークが小さい。免震用は何十cmも変形させるが、制振用は数cm程度の変形能のものを各層各所に設置する。このためダンパー数は格段に多い。
建物用のオイルダンパーは、1mを超える大きさの重量物である。製造本数は年間に1000本程度である。これに対し自動車用は小型で、年間2千万本も製造される。このため、自動化した生産ラインで作られ、性能のばらつきも小さく、製造後の調整なども不要である。性能確認試験は製造者に加えメーカーも行っている。また、性能が悪ければユーザーに乗り心地で分かってしまう。これに対し、オイルダンパーは一日4本程度しか作らない手作りのようなものである。重量物なので部品移動にクレーンなどが必要となる。製品ばらつきも生じやすいので、調整も必要になる。建設現場で性能確認試験をすることは無く、大地震が起きるまで問題は分からない。
積層ゴムやオイルダンパーは、高精度の製品を大量生産する自動車部品メーカーが作っている。土という自然材料の上に、水とセメントと砂利からできたコンクリートで作っている建築とは異なる。一品生産の建築物についてどの程度学んでいたのか疑問に残る。
土木・建築の精度は機械の精度とは大きく違う。不確実な自然現象である地震を扱う耐震設計では、様々な幅や余裕を考える。10%とか15%という精度は、土やコンクリートの精度とは異なる。
免震装置(法的には免震材料と言う)は、建築基準法に基づいて、国土交通大臣が指定した指定性能評価機関が大臣に代わって性能評価を行い、大臣が認定する。装置の特性などについて、装置メーカーが提出した実験データなどに基づき審査をし、その妥当性を判断すると共に、材料の製品ばらつきや、温度による特性変化、経年的な変化などについて許容値を定める。装置の評価や構造設計の評価には免震装置や免震設計に詳しい学識経験者が当たるが、評価機関の増加や、経験豊富な学識経験者の減少と高齢化、現役の学識経験者の多忙さなどの問題を抱えている。
免震建物の設計には、時刻歴応答解析が使われることが多い。建物の応答は、
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