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固定観念排し「水曜どうでしょう」は成功[18]

独自番組で利益うむ地方局の理想モデル、DVDは450万本売れ総額は180億円に

川本裕司 朝日新聞社会部記者

 ローカル局の番組といえば地方密着なので、地元色を打ち出す。しかも、予算が潤沢といえないので、派手な企画は敬遠する。

拡大「水曜どうでしょう」に出演している大泉洋(右)と鈴井貴之。DVDは2018年にも発売された (C)北海道テレビ放送
 こうした既成概念を消して制作、全国区の番組に成長させ、DVD販売で多額の収益を上げたのが、北海道テレビ放送(HTB、テレビ朝日系)の深夜バラエティー「水曜どうでしょう」である。1996年10月に始まり、再放送を繰り返しながら新作やファン向けのイベントも手がけ、地方局の成功モデルとなっている。当初からディレクターを務める藤村忠寿(53)=現・コンテンツ事業室エグゼクティブディレクター=は明快だ。

 「ローカル局はお金がないのでロケしようと思ったって、札幌のすすきのとか大通公園とかチョコチョコと何かやって帰ってきて作っている番組がほとんどだった。若い視聴者はすすきの云々といった瞬間に見ない。僕はラテ欄に派手なことを書きたかった。例えばアメリカ横断ぐらいのことを書けば、見てくれる可能性は高くなる。そこで、出演者2人とカメラマンを兼ねたディレクター2人の計4人という最少人数で海外に行くことにした」

 行き先は藤村の希望でオーストラリアに。番組開始から3カ月後の97年1月に実現させた。レンタカーを借り、出演者の大泉洋(45)と鈴井貴之(56)を含め交代で、ダーウィンからアデレードまで3700キロの道のりを砂漠の真ん中を突っ切り、4日間で縦断した。

 旅をする道外ロケの行き先も、番組内で振るサイコロの目に書かれた場所にした。同じ時間帯で放送されていたフジテレビ系、松本人志の「一人ごっつ」に対抗するため、キー局と同じ土俵で勝負しようとしたのだった。番組名は日本テレビ系「水曜ロードショー」をもじったふざけたものだったが、同局の深夜番組「モザイクな夜」で注目していた大泉を前面に出し、構成作家でもある鈴井も出演するようにした。道中のやりとりを含め、出演者とディレクターの関係も示しながら伝える素顔の部分に視聴者が反応した。99年には18%を超える最高視聴率を記録した。

 2002年に大泉、鈴井らとやはり4人でベトナムを原付きバイク2台で1800キロを縦断したときも、民生用のホームビデオで大泉と鈴井の背中から撮影する臨場感が引きつけた。人気は口コミで伝わり、道外の放送局への番組販売が相次いだ。07年には、福井県を最後に、47都道府県を「制覇」した。

 固定観念を排した制作手法で人気番組にした藤村の判断基準は、自分にとっておもしろいかどうかだ。北海学園大の学生だった無名の大泉について感じた「おもしろい」という確信だった。当時、注目していたバラエティー番組はTBS系「ウンナンの気分は上々。」だった。いまは日本テレビ系「世界の果てまでイッテQ!」を楽しみながら見ている。

 30分番組で制作費が数十万円という制約のなか、こぢんまりまとまることなく、行きたい場所に向かい、運任せの旅のロケに興じた。だから、毎週のレギュラー放送が終わる02年9月まで、マンネリを恐れず、自分の感覚を信じて制作を続けた。おもしろい作品を作れば、視聴率はついてくる。その決め手となるのは、出演者と制作者のセンスと考えている。

 番組が始まって以来、海外ロケを含めずっとパートナーとなっているもう1人のディレクターは、制作会社HTB映像の嬉野雅道(59)だ。番組には藤村や嬉野も登場、大泉、鈴井との4人の人間関係が視聴者に伝わってくる。

 ときに声が入る程度だったのだが、97~98年ごろにあった宮崎でのロケで料理が出されたとき、藤村は「それ、本当においしいのか?」と聞いた。すると、カメラを撮っていた嬉野と藤村が手を出して、パンを食べ、藤村が「あっ、たしかにうまいな、これ」と言った。予定した演出ではなかったが、藤村は札幌に帰り画面で確認したとき、ディレクターがしゃべることがリアリティーをもたらすと気づいたという。「タレントが『うまい』というより、僕らが手を出して食べ『うまい』と言った方が、視聴者はたぶん信じる、と思った」

 藤村は言う。「おもしろいものをなぜ変えないといけないのか、おもしろいものは何回やってもいいですよという単純な気持ちが強かった。マンネリは恐れない。開始から3年ほどして設けた番組のホームページに書き込まれた視聴者の反応を注意して見ていた。視聴率だけではお客さんの姿は見えない。視聴率の数字が1回、2回下がったぐらいで大丈夫だろうかと不安になりテコ入れするのはよくない。リセットして作り直すのは、相当の力がいる。一時的にヒットするよりも、定番を長続きさせる方が強く、稼げる」 ・・・ログインして読む
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筆者

川本裕司

川本裕司(かわもと・ひろし) 朝日新聞社会部記者

朝日新聞社会部員。1959年生まれ。81年入社。学芸部、社会部などを経て、2006年から放送、通信、新聞などメディアを担当する編集委員。10年、論説委員兼務。17年4月から東京社会部。著書に『ニューメディア「誤算」の構造』。共著に『テレビジャーナリズムの現在』『被告席のメディア』『新聞をひらく』。

 

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