小野登志郎(おの・としろう) ノンフィクションライター
1976年、福岡県生まれ。早大中退後、フリーのライターとして執筆活動を始める。在日中国人や暴力団、犯罪などについて取材し、月刊誌や週刊誌に記事を掲載している。著書に『龍宮城 歌舞伎町マフィア最新ファイル』『ドリーム・キャンパス』『アウトロー刑事の人に言えないテクニック』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
外国人、移民労働者が「犯罪者となる」ことの意味
もう3年くらい前ですか、関西の暴力団関係者に、「あいつらなんとかしてくれよ」と、言われたことがあります。「あいつら」とは不良在日ベトナム人グループと中国人グループのことで、双方が争い、それをどうしようもなく見ているだけとのことでした。
過酷な労働環境に置かれた外国人、移民労働者が、過労死、自殺するくらいなら、法のグレーゾーン、ブラックゾーンに飛び込んでやろう、最後の戦いを挑んでやろうと思うのは、不思議なことでしょうか。いったい誰が、好き好んで、逮捕されるかもしれない、抗争に巻き込まれるかもしれない、危険なブラックゾーンに入りたがる、ハイリスクローリターンな道を選ぶ人間がいるのでしょうか。
彼ら彼女らの絶望からくる、破れかぶれの選択を、「自己責任」として、それが嫌なら、低賃金で過酷な労働をやれ、できなければ過労死、自殺を選べ。さもなくば母国に帰れと。日本人の一部は主張しているのでしょうか。怒りを通りこす、哀しさと諦念しか私にはありません。
外国人労働者の失踪が異常なまでに増え続けています。
なにも今に始まったことではありません、もう十何年も前から問題視されてきた技能実習生制度という実質的な奴隷労働制度。なぜ無くならないのか、経済界と政界が鉄のスクラムを組んで鵺(ぬえ)のように反対派をかわしてきたから。今後も劇的に変わる可能性は低いのです。
報道されていないから、そもそも事件化していないから目立たない、水面下で起こっている抗争というのは、あります。だからといって、むやみに「在日外国人が危ない」というのはよくありません。事実、外国人労働者が増えている昨今、彼ら彼女らのごく一部が「不良化」した数、犯罪率は統計的には、毎年どんどんと少なくなっているのです。
いや、そもそも、なし崩し的な移民政策を行っている裏で、「犯罪者」化しているのは、彼ら彼女ら外国人を雇うブラックな企業、半ば騙して日本に連れてくる人買い業者、ブローカーたちの方ではないか。犯罪が犯罪を呼ぶ。犯罪のループというのは確実にあって、その端緒を開いているのは日本社会と日本人の側にあるのではないか。
日本社会は既に「移民社会」になっている、という議論もあります。多様化している。それに対応できている。もう日本人だけの日本はどこにもない、という話です。
わたしもそう思います。都会も地方も、外国人労働者無くして成り立たない現実があると思います。
しかし、報道されているように、その外国人労働者に対する扱いが、あまりにも酷い例が多すぎます。日本社会を支えている彼ら彼女らは、文字通り「死」に直面しています。そのことを理解し、共感しなくてはなりません。「死」に直面している彼ら彼女らの待遇を変える、改善する営為を速やかに行わなくてはなりません。
「死」に直面した彼ら彼女らの中から、「不良」と呼ばれる「外国人」が生まれます。生きていくために、そうなるのです。
先に書いたように、現在もう既に外国人労働者の失踪が異常なまでに増え続けています。その数、年間7000人。7000人の絶望が日本の各地で彷徨っています。わたしたちは、日本という外国で失踪する人間たちがいるという事態の重みを、深く考えなくてはなりません。失踪したくて日本に来たのですか。失踪とはイコール、不法移民者、法の向こう側、犯罪者となることです。そのために日本に来たのですか。違うでしょう、当然のことです。
外国人労働者の犯罪率は今現在、酷い頃に比べて(1980年代~2000年代前半)減っているという事実はあります。しかし、来日する外国人労働者が増えればその母数は当然増えることになり、絶対数としての犯罪の数は増えることになるでしょう。テレビや新聞で報道されるその一端が誇大に宣伝され目立つことにより(今すでに誇大に宣伝されています)、一部日本人の、外国人労働者へのヘイト、憎悪が広がることが容易に懸念されます。