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M-1でジャニーズ化する吉本興業(上)

男同士を競わせ成長させていく 応援したい女性ファンをどう囲いこんでいくか 

杉浦由美子 ノンフィクションライター

 漫才日本一を争う『M-1グランプリ』。今や国民的なイベントとなっているが、注目度はあがる一方で無論、批判も出てくる。

 決勝に残るのは吉本芸人、それも関西勢ばかりだ。今年の決勝に出る顔ぶれの中で、標準語(東京の言葉)で漫才をするのは、ゆにばーすのはらと初出場で唯一の非吉本芸人のトム・ブラウンだけだ。この傾向は今後変化していくかもしれない。なぜなら、今年の決勝戦審査員には、サンドイッチマン富澤、ナイツ塙といった東京の漫才師や江戸落語の立川志らくといった人たちが加わったからだ。決勝戦ではコテコテの上方漫才が有利という傾向はなくなるかもしれない。

 他にもM-1に対する批判はいくつもあるが、その中で、これらの批判の中で、最も興味深いのは、以前、爆笑問題がラジオで言及していた「芸人は頑張っている姿を客に見せるのはダサいんじゃないか?」という問題だ。

 M-1決勝戦の冒頭では、舞台裏の様子を見せていく。いつもはおちゃらけている芸人たちが真剣な表情を見せて、緊張のあまり吐いたりしている。

 人が懸命に目標に向かって挑戦する姿は魅力的だし、だからアスリートたちの活躍に多くの視聴者は興奮する。

 しかし、芸人とアスリートは業務内容が全く違う。芸人の仕事は客を笑わせることだ。人が真剣に頑張っていることは笑いにくい。そのため、芸人は常にふざけているように見せなくてはいけない。そうしないと客は心から笑えないからだ。

 爆笑問題が世に出たきっかけは、1994年に勝ち抜きのお笑い選手権番組『GAHAHAキング爆笑王決定戦』(テレビ朝日系)で初代王者になったからだ。時事的なネタを扱う彼らの漫才は知的かつ新鮮で全国から注目を浴びた。あの時、太田光は血がにじむような努力をし、精神的に切迫した状態にあったはずだ。一般にはほぼ知名度がない新人が、スポットライトを浴びて、全国放送で漫才を披露するのだ。失敗は許されない。

 しかし、彼は舞台の上では緊張を少しも見せずに漫才をし、審査員に絶賛されてもなめくさった態度をとった。これは「真面目さを見せたら客に失礼」という美学であり、この姿勢を太田光は今でも貫いているが、それはお笑い芸人全体のスタンダードでもある。

 『ゴッドタン』(テレビ東京系)で、『マジ歌選手権』という企画がある。芸人が真面目に歌を披露するというものだが、司会のおぎやはぎは「芸人は真面目にやっているところを見られるのが一番恥ずかしい。努力しているところとかね」とコメントしていた。

 このお笑いのスタンダードな美学に反することを、M-1はやっているわけであり、出場する芸人たちもジレンマを感じているはずだ。

 今年のファイナリスト発表会見で、スーパーマラドーナの武智が「俺が一番M-1のことを思っている」と熱い思いを叫ぶと、相方の田中は「僕にとってM-1は仕事のひとつ。仕事だから頑張りますよ」とボケる。

 武智のストレートな熱意は人としてかっこいい。芸人としてはダサいわけで ・・・ログインして読む
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筆者

杉浦由美子

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ) ノンフィクションライター

1970年生まれ。日本大学農獣医学部(現・生物資源科学部)卒業後、会社員や派遣社員などを経て、メタローグ社主催の「書評道場」に投稿していた文章が編集者の目にとまり、2005年から執筆活動を開始。『AERA』『婦人公論』『VOICE』『文藝春秋』などの総合誌でルポルタージュ記事を書き、『腐女子化する世界』『女子校力』『ママの世界はいつも戦争』など単著は現在12冊。

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