福祉と労働の現場への影響は看過できない
2018年11月28日
11月13日、政府は天皇の代替わりに伴い、新天皇が即位する2019年5月1日と「即位礼正殿の儀」が行われる同年10月22日を、その年一回限りの祝日として扱う特別法案を閣議決定した。
この法案が国会で通れば、来年のゴールデンウィークは4月27日から5月6日まで10連休となる。
菅義偉官房長官は記者会見で、法案の意義について「国民こぞって祝意を示すため、祝日扱いとする」と説明。10連休に関しては「ゆとりのある国民生活の実現を期待する」と述べた。
この超大型連休については、観光業界から期待の声があがるものの、医療・介護・保育などの現場ではマイナスの影響が出るのではないかという懸念が広がっている。
10連休で「ゆとりある国民生活」を実現できるのは、もともとゆとりのある人だけではないだろうか。ここでは、貧困問題への影響という観点から10連休の弊害について考えてみたい。
通常、生活に困っている人が生活保護を申請すると、福祉事務所は原則14日以内(特別な事情がある場合は30日以内)に書面で可否を通知しなければならない。生活保護が決定されると、保護費は申請日にさかのぼって支給される。
決定までの期間、申請者が当面の生活費を持っていなければ、社会福祉協議会などから一時金の貸し付けを受けることができる。また、急いで医療機関にかからなければならない場合は、生活保護の指定医療機関で申請中であることを伝えれば、決定後に役所が医療費の処理をするという前提で、医療を受けることもできる。
実は、生活保護の申請行為自体は、役所が閉庁期間中であっても可能である。支援団体のホームページ等から申請書をダウンロードした上で、必要事項を書き込み、郵便やファクスで申請書を送付したり、役所の夜間休日窓口に申請書を持っていくといった方法を取れば、福祉事務所の窓口が開いていなくても申請することができるのだ。2008年の年末から2009年の年始にかけて開設された「年越し派遣村」では、ファクスにより千代田区福祉事務所への集団申請が行われた前例もある。
だが閉庁期間中は、申請行為自体はできても、一時貸付金の受け取りはできなくなる。医療機関への受診も、医療機関が福祉事務所への確認ができないことを理由に10割の医療費を本人に請求する可能性がある。
また、住まいのない生活困窮者の場合、民間団体による支援がなければ、連休後まで宿泊の支援を受けることができない可能性が高い。
連休により、役所が10日間閉庁するということは、その期間、生活困窮者にとっての「最後のセーフティネット」である生活保護が事実上、機能を停止するということを意味している。最悪の場合、路上に放置された人が命を落とす事態も想定されるのだ。
また、生活保護の窓口だけでなく、ハローワークや生活困窮者自立支援事業の相談窓口、障害者福祉や高齢者福祉の窓口なども10日間閉まることになる。その弊害は大きいと言えよう。
福祉現場だけでなく、労働現場への影響も深刻だ。多くの人が懸念しているのが、日給や時給計算で働く非正規労働者が連休により減収になる点である。
東京都内で日払いの倉庫内作業に従事する30代の男性は、「日銭なので、休んだら、その分、給料がもらえなくなる。以前は月給制の仕事に就いていたこともあるのですが、一定の金額が保証されている月給の仕事と違い、時給や日給の仕事になると保証がなくて、大変だなと痛感しています」と話す。
現在の仕事は一日あたり約8000円。交通費は支給されないため、往復800円の交通費は自己負担だという。
この男性は10連休の影響で働ける日数が減り、給与が減るのと同時に、連休で銀行の業務が停止することも気になると語っていた。以前、派遣会社で働きながら、ネットカフェで生活をしていた頃に自分が犯したミスを覚えているからだ。
男性は当時、週払いで振り込まれる給与の中からネットカフェ代を支払うという綱渡りの生活をしていたが、転職したばかりの時、振り込みがあるべき日に銀行口座に入金がなく、ネットカフェ代を払えなくなってしまったことがある。
なぜ給与が振り込まれていないのか。急いで派遣会社に問い合わせた際、自分が致命的なミスを犯してしまったことに男性は気づいた。派遣会社の担当者から「申請ボタンって押しました?」と聞かれたのだ。
その派遣会社では給与を週払いにするためには、会社のウェブサイトに入り、「申請ボタン」をクリックしなければならない。そのワンクリックを忘れてしまっていたのだ。
すぐにウェブサイトで手続きを行ったが、運悪く、3連休に入ってしまい、銀行の都合により入金されるのは4日先になってしまった。
ネットカフェ代を支払えなくなった男性は、
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